※記事は月刊オートバイ2017年4月号より。車両については、現在の仕様と異なる場合がございますので、あらかじめご承知おきください。
こんなに軽いバイクは通常の市販車ではあり得ない
編集部(以下 編):前回は、基本的に岡田さんと伊藤さんは真逆の性格だということがよく分かりましたが、今月も忌憚のないご意見をぶつけ合って頂けると、誌面的にも一層盛り上がって良いなと期待しております(笑)。さっそくRC213VーSについて語って頂きたいのですが、まず、初めて乗った岡田さんの第一印象はいかがでしたか?
岡田
:こういうポジションのバイクに乗るのが久しぶりだったから、正直、最初は違和感があったんだよ。でも乗ってるうちにすぐに慣れたね。それに疲れない。この姿勢で長時間乗っても首が痛くならなかったもん。まあ、本格的に長距離とは言えないツーリングだったからかもしれないけど…。
伊藤
:いや、結構な時間乗ってたと思うよ? 片道で一時間半以上は走りっぱなしだったもん。
岡田
:それでも全然平気だったんだよね。普通は距離に比例して疲労度が蓄積されていくものだけど、全然疲れなかった。たぶん軽いからなんだろうけど。
編:バイクが軽いと、どうして疲れないのでしょうか?
岡田
:う〜ん……軽いから。
編:そんな禅問答みたいな!
伊藤
:いや、でも本当に軽いから疲れないんだと思うよ?(笑) 俺も乗りながら、「このポジションで疲れないって不思議だなぁ」って思ったもん。乾燥重量が170㎏って、やっぱり軽いよね。
岡田
:そうだね、そもそも車重が軽くてバランスがいいバイクだから疲れないし、発進時とかUターンとか、取り回しでもライダーにかかる負担が少ないから、疲れにくいのもあると思う。一般道だったら、日本仕様の70馬力で十分なパワーだなと感じたんだけど、それもこの軽さがあるからだろうね。
編:岡田さんとしては、馬力の物足りなさは感じなかったんですね。
岡田
:うん、日本仕様だと大体8000回転くらいでリミッターが効くみたいなのね。だけどサーキットでもないのに、一般道でそれ以上に回すシチュエーションはないじゃない。それは山道でも変わらないし、パワーとしては十分だと思った。それに高速で100㎞/h巡航だと、6速より5速くらいの方が、エンジン音だったり、メカニカルノイズだったりが心地良いんだよ。この軽さだから伝わるエンジンの出力とか、振動が感じられるというか。
伊藤
:排気音といえば、結構スゴい音するんだって、岡田の後ろを走って初めてわかったよ(笑)。自分で乗ってると意外とわかんないけど、外から聞いたら意外とデカいじゃんって思った。
岡田
:俺も最初にエンジンをかけた時に、アイドリング状態で意外と音がデカいなって思って。ただ、その先は静かになってくんだよね。乗っていて、V4エンジンのいちばんいい音が聞けるなって思ったのは、4000回転の辺りだったかな。
2人揃って絶賛するスロットルレスポンス
伊藤
:ぶっちゃけ、乗った感じはMotoGPマシンぽく感じた?
岡田
:全く同じかと言われたらそりゃ違う部分もあるんだけど、確かに似てるよね。ベースが一緒だから。普通の市販車ではあり得ない軽さだから、その部分だけでも面白さを感じるし、「ほぼ本物のレーサー」と言えると思う。
編:軽さがネガになる部分はないんですか? 例えば高速道路の横風とか。
岡田
:このバイクに限っては、ないね。この軽さが、しっとりした節度感のある足周りの良さにも繋がってると思うし。
伊藤
:一緒に走ってる時に後ろから見てるとね、バネ上とバネ下がちゃ〜んとキレイに動いてるのが分かるんです。これは変な突き上げもないだろうし、乗り心地がいいだろうっていうのが、見てても分かるのよ。
編:サスペンションの良さが見て取れるのは凄いですね。
伊藤
:それくらい、この軽さがいい影響を与えてるんでしょうね。今回の取材で一緒に乗ったアフリカツインから、213VーSに乗り換えた時もビックリしたもん。「軽すぎだろう!」って(笑)。本当に軽くて、すみずみまでキッチリしてて精度が高くて、ああ素晴らしいレーシングマシンなんだな、って乗った瞬間から感じるんです。その意味では、逆にアフリカツインは「良い意味での」大味さがあって、取っ付きやすさを感じるかもって思ったくらい。213VーSも驚くほど乗りやすいんですが、普通の市販車に慣れてると、キッチリし過ぎている印象を持つ人もいるかもしれないですね、213VーS
編:ちなみに、伊藤さんが前回213VーSに乗った時には、スロットルレスポンスを絶賛されていたんです。「スロットル開度に合わせて、本当に自然にエンジンの回転がついてくる」と評価されてましたが、その辺りは、岡田さんも感じるものがありましたか?
岡田
:うん、見事にイチイチ(1:1)でしたね。ライダーが求めることに対して、ちょうど求めた分だけの反応が、実にちょうどいいタイミングで返ってくる。前回も言ったけど、もともとホンダのエンジンは「ツキ」がいいから、ちょっとドンツキが出やすい傾向があるのね。アフリカツインも、そういうドンツキがないのが凄いなって思ったバイクだけど、213VーSはさらにその精度が高いというか、本当にキレイについてくるなって思いますね。
編:人間のフィーリングにピッタリ合うようになっていると?
岡田
:そうそう。
編:ちょっと脱線になりますが、そもそも「ドンツキ」とは、どういう状況を指す用語なんですか?
岡田
:例えばね、自分の入力に対して、予想しているよりも先にエンジンの出力が出ちゃうとか…つまり、入力と出力が1:1じゃないんですよ。この先に出ちゃう部分というのは、アクセルの開け始めとか、ホントに微細な回転領域での味付けの話なんだけどね。
伊藤
:もうひとつは、開け始めに出力が出てなかったり、逆に減っていて、そっからいきなり出るから「ドン」って感じる場合。
編:それはスロットルの遊びとかも関わってくるんですか?
伊藤
:それはまた別の話ですね。
編:では、反応不足と感じるくらいなら、多少のドンツキがあってもしっかりレスポンスする方がまだマシなんでしょうか?
伊藤
:一概にそうとも言えないんだよね。出過ぎちゃうと乗れなくなっちゃうので。ちょっと昔のCBR1000RRとか、少しその傾向がありましたけどね。
編:理想はやっぱり、イチイチでついてくれるのがいいんですね。
岡田
:まあ、タメも必要なんだけどね。前触れなくドンって出るよりは、少しタメが欲しかったりするから。車体でもエンジンでもなんでもそうだけど、反応する時に少しだけ遅れ感がある方が、人間はコントロールしやすいんだよね。それがリニアにポンって反応されちゃうと、恐怖感を感じちゃうのよ。
編:ちょっと遅れ感がある感じ…それが明確な「遅れ」になっているのはダメなわけですよね。
岡田
:そう、遅れじゃなくて、タメが必要。
伊藤
:どのくらいタメが必要かは馬力によっても変わるし、乗り手のスキルにもよるけど、100馬力以上あるようなバイクだと、やっぱりタメがないとコントロールがムリなんですよ。扱いきれなくなる。岡田の言うとおり、スーパーバイクでも1000㏄とかの大きい排気量になると、ちょっとタメがあって、余分に開けていけるくらいに思えるマシンじゃないと、まともに乗れないんです。でも、排気量が小さいバイクでタメを作っても、今度は「なんだ、走んないな」ってなっちゃうから。
編:どのくらいタメが必要かとか、その辺は乗り手の好みも絡んでくるのでしょうか?
岡田
:まあ、ライダーによって走り方のクセもあるしね。ただ、排気量が小さくても全体的なバランスの取れたバイクの方が、乗ってて楽しいのは、絶対なんですよ。
伊藤
:213VーSは、その意味でのスロットルレスポンスが頭抜けていいバイクなんだよね。しかもその良さが、70馬力の日本仕様も、欧州仕様の102馬力も、スポーツキットを装着したフルパワーの215馬力も一切変わらなくて。俺は全部乗ったけど、そのまんまでしたからね。中でも特にフルパワー仕様車のレスポンスは素晴らしいんですよ。だから次のCBRも、213VーSと同じ制御系を使うのであれば、そこはかなり期待できると思いますね。
HONDA RC213V-S SPECIFICATION
全長×全幅×全高:2100×790×1120㎜
ホイールベース:1465㎜
シート高:830㎜
車両重量:170㎏(乾燥)
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブV型4気筒
総排気量:999㏄
ボア×ストローク:81.0×48.4㎜
圧縮比:13
最高出力 :70PS/6000rpm
最大トルク:8.8㎏-m/5000rpm
燃料タンク容量:16ℓ
変速機形式:6速リターン
キャスター角:24.6度
トレール量:105㎜
タイヤサイズ(前・後):120/70ZR17・190/55ZR17
ブレーキ形式(前・後):ダブルディスク・ディスク
価格:2190万円