往年の「ルーツ」を知るとネオクラの味わいも変わる
かつての名車をオマージュしたネオクラシックたち。
今やこのジャンルは代表的なスタンダードバイクの一翼を担うほど普及している。今回の3車はその代表格と言えよう。
それぞれ、いにしえのCBやZ1/Z2(RS)、GSX1100Sカタナといった、名車たちの「何か」を伝統として受け継いでいる。
3台とも、そのルックスにちりばめられた名車のエッセンスは確かに美しい。
ただ、それを「主菜」と捉えてもいいが、それぞれ走りにもしっかりこだわりがある。
乗れば最新のスポーツバイクだったり、ルーツである往年のマシンに関する予備知識があった方がいいほど、昔のテイストが潜んでいたりする。
今回の3車以外にも、かつて一世を風靡した独特の走行フィール、パワーフィールを「味」として走りに組み込んだモデルもある。
それが何なのかわからなければ、ただの振動やノイズ、クセのあるハンドリングと感じてしまうこともあるだろう。
こうしたバイクたちを語る前に、あえて味付けされた古典的な特性の面影を知っておくと、感じ方が変わるかもしれない。このジャンル、結構奥が深いのだ。
先に書いた「最新のスポーツバイク…」と思って間違いないのはKATANAだ。
このクラスのスポーツネイキッドとしては最強レベルのパワーもある。
ライバルにはサーキットでも通用しそうなモデルもいるが、KATANAはあくまでもストリートにこだわった1台だ。
Z900RSも、走りは最先端のスタンダードスポーツ。
街中から峠まで、ツーリングで流すようなペースで乗り心地がよく、極めてイージーに扱え、軽快にフットワークする。
速さや力強さをひけらかすことなく、徹底的な扱いやすさを魅力としている。
CBはその走りの味にまで「レトロ」を植え付けた、こだわりのモデル。
直4なのに、ハンドルには振動というにはちょっと違う震えがあるし、加速した時の音やエンジンが発する唸りは面白いように変化する。
今風のバイクらしいエンジンにするのは簡単だ。でもこれは、かつてCB750Fourが世に出た頃の直4の特徴だった感触。
それに気がついて走ると、おのずと小気味良いペースと回転域もバイクが訴えてくる。
ネオクラシックたちの走りの味付けは千差万別。
快適さだけではなく、愉しさや懐かしさまでこっそり潜ませているバイクがいるのも忘れてはいけない。
ステラのタンデムCHECK!
タンデムライダー 身長:163㎝ 体重:43㎏
KATANA
タンデムシートが一段高くなっているので視界はかなり良好です。タンデムステップ位置のおかげか、足首の動きに自由度があって、リラックスすることも踏ん張ることもできるので、ライダーと一緒に走りを楽しめました。ただ、タンデムシートがちょっと狭めなので、急なブレーキングの時などは体が前にずれてしまうことも。
Z900RS
ヒザの曲がりがややきついのですが、タンデムすると自分のヒザがちょうどライダーの腰に当たるので、しっかりニーグリップできて体を安定させやすいです。タンデムシートは肉厚で快適。欲を言えば、ライダーとの間隔が広めなので、タンデムの機会が多いならグラブバーを追加すると後ろの人がより快適だと思います。
CB1100RS
シートがフカフカで快適。腰にも優しい感じで、空冷エンジン独特の優雅なパルスやサウンドをライダーと一緒に楽しむ余裕があります。ただ、今回の試乗コースでは大きな段差で突き上げられ、ちょっとドッキリする場面がありました。ゆとりがあっても、しっかりライダーにつかまって体を安定させることは大事ですね。
本誌テスター3人の 「ネオクラ通信簿」
宮崎敬一郎
怒涛のフルバンクでおなじみ本誌メインテスター。
かつてはZ2に乗って九州各地のワインディングを走り回っていた。
走ればKATANAはとても元気な普通のバイク。Z900RSは勇ましい演出がステキだが、非常に従順なバイク。どちらもその「姿」にノックアウトさえされなければ、よくできた現代のバイクに見える。でも、CB1100RSだけは現実的な高性能にソッポを向いて、別次元の感触を魅力にしている。個人的には、どうせ乗るなら味の濃い方が面白そうだと思ってしまった。ただ、より濃い味のW800やトライアンフ、モト・グッツィがいたらもっと悩むだろう。
太田安治
用品テストからニューモデル試乗までこなす本誌テスター。
かつてCB750Fをコテコテにカスタムして乗っていた過去を持つ。
この3台のキャラクターはクッキリ分かれている。刺激的なルックスとシャープな運動性能のカタナ、重厚な走りと愛でる美しさを備えたCB、従順で乗り手を選ばないZ。僕の使用環境は高速道路メインの通勤と峠道比率の多いツーリングがほとんどなので、カタナの航続距離の短さとクルージング中の細かい振動は気になるし、CBは車重が重すぎて取り回しが辛い。ということで僕はカワサキイメージらしからぬ(?)優等生のZを選ぶ。
八代俊二
SBKの解説でもおなじみ元WGPワークスライダー。
18歳のときにバイクの競技大会で優勝、その練習用としてZ2に乗っていたらしい。
最後発のカタナはバイクとしての品質、完成度は一番高かったけど、個人的にはもっと走りの個性を前面に出してもいいと思う。Z900RSはZ1/Z2のイメージを今風にアレンジして、洗練されたスタイルだが、根底には「走り屋の血」が流れていることを感じさせてくれた。空冷なのに一番重くて、一見時代遅れに見えるCB1100RSだが、実際に乗ると一番楽しめたし、疲れなかった。速さや数値的な性能と楽しさは違う場所にあることを再認識した。
TEXT:宮崎敬一郎、太田安治、八代俊二、木川田ステラ