1999年、メーカーは違えどもSR的な世界がやってきた
1999年に登場したカワサキ「W650」は、当時のオートバイたちの中にあって、確実に異質だった。
この頃のヒットモデルといえば、ビッグバイクではホンダCB1300SFやカワサキZRX1100、ヤマハXJR1300らのビッグネイキッドに、ミドルクラスではヤマハ・ドラッグスター400やTW200――人気モデルが特定のカテゴリーに定まらない、そんな時期だったのかもしれない。
W650は、発売されると、ランキング初登場の2月に、いきなり販売台数ベスト10の5位にランクインした。
ZRX1100がトップ、2位にCBR1100XX、3位がXJR1300、そして4位YZF‐R1に続く5位だ。
まずまずの注目を浴びたデビューだったのだ。
すると翌3月には、なんとランキングトップを奪取。2位にCB1300SF、3位にCBR1100XX、ビッグバイクもメガスポーツも下して、まずまずどころか、大注目のニューモデルとなったのだった。
なによりW650は新鮮だった。空冷エンジン、並列2気筒、しかもバーチカルツイン、ベベルギア駆動のカムドライブ、リア2本サスに、前後にフラットなダブルシート。
さすがにフロントブレーキがドラムとまではいかなかったけれど、日本のマーケットに生まれた、久々のクラシックテイストなモデル。
そう、W650は78年にデビューしてずっと販売が続けられてきたヤマハSR400と同じカテゴリーだった。
ただし、SRは400、対してWは650。その排気量も、遥か1960年代から続いてきた、英国車でいうところの、由緒ある排気量だった。
オートバイらしい端正なスタイリングと、スリムでコンパクトなボディ。
エンジンには深く美しい空冷ファンが刻まれ、シリンダーサイドを上下に走るベベルギア&シャフトの存在感も、重厚で流麗だった。
重厚感のあるエンブレムを備えたフューエルタンク、前後フェンダーをはじめとするボディパーツも、しっかりと厚いメッキを多用したパーツを組み合わせ、W650は、カワサキが目指した「美しいオートバイ」を見事に具現化していた。
走り出す前に、オートバイを見回してほれぼれする。
それも、スーパースポーツやビッグネイキッドに食傷気味だったライダーの心を撃ち抜いた。
メーカーは違えども、久しぶりに表れた「SR」的な世界だったのだ。
初めてW650を始動した時には、僕はキックアームを踏み下ろしたのを覚えている。
確かな押し踏み応えがあって、それでもあっけなく始動した空冷バーチカルツインは、さすがにダブワンのようなズドドド感はなく、ストトトト、という軽快なパルスを奏でてくれた。
ニーグリップ部分が絞り込まれたダブルシートは、シート自体のコシがあって、さらに足つきもすこぶるいい。
そして650㏄という、今でこそミドルクラスと言われる排気量だけれど、かつては国産モデル最大排気量だった大型車だというのに、なんとあっけなく、軽々とエンジンが回り、走り出すことか。
低速トルクも、650㏄の空冷ツイン、と身構える必要はまったくなし。
ドンと体を押し出すようなトルクがあるわけではないが、それでも低回転域からスムーズにW650は走る。
直進安定性も高く、ハンドリングは軽く、ブレーキも効く。
これがかつてのW1との大きな違いだった。なにせW1は、大なり小なり、まっすぐ走るだけでもなにかしらの緊張を強いてきたし、強い鼓動は、言い換えれば不快な振動であり、どこ回転域でも、どんなスピードでもイージーに、快適に、とは言い難いモデルだったのだから。
66年にW1が発売されてから、30年以上たってデビューしたW650は、スタイリングには同じDNAが流れているとはいえ、まったく違うオートバイだ。
ビッグネイキッドやスーパースポーツが忘れてしまった「力」を確実に感じさせてくれた、新生W650。
W1とは違う形で、W650を走らせることは、確実に感動があるのだ。
文:中村浩史