W800には、振動とは違うパルス、力強い鼓動がある。これこそが存在理由。
新基準の排気ガス&騒音規制対応のため、一時的にカタログ落ちしていたカワサキ「W800」。
リニューアルした2019年モデルは、ストリート/カフェの2バージョンがラインアップされている。
2011年の初代W800と、今回の新型は、大きな違いがないように見えるが、エンジンよりも車体面の変化が大きく、大まかに言うと、Wらしいフィーリングを、シャキッと味わえるようになったのだ。
エンジンは、相変わらず「何にも似ていない」空冷バーチカルツインらしいもので、一貫してドンという強い押し出し、カドのある回転がないかわりに、トップ5速2000回転→60㎞/hほどでしっかりネバる。こんなエンジン、今どき少ない!
フューエルインジェクションで燃焼効率を上げ、排気ガスも騒音も制御された現代のSOHC4バルブの空冷エンジンに、かつてのW1のようなズドドドド、という強い鼓動はない。
それでもW800には、振動とは違うパルス、力強い鼓動がある。これこそが存在理由。
時々キビキビ、普段はのんびり走って気持ちがいい――これがW。
もちろんテストコースで走った時には、最高速度は180㎞/hをオーバーする実力も持っている。
けれど、やっぱりWの空冷バーチカルツインは、トップ5速で3500回転/時速100㎞でのんびり流したい。
フロントホイール径が19インチから18インチに小径化され、フレームにも手直しを受けた車体まわりは、ピシッと直進安定性が出て、例えばS字の切り返しや、高速道路のレーンチェンジでユサッとした揺り戻しも明らかに減っている。
そしてスポーツランを楽しみたいなら、やはりW800カフェがおすすめ。
ビキニカウル、低いハンドルは決してファッションだけなのではなく、少しだけシート高が上がっていることからもわかるように、フロント荷重が増え、ハンドリングもいくらかクイックになる。
アップハンドルのW800ストリートでスポーツランをする楽しさもあり、前傾ポジションのW800カフェが峠でピタッと決まる、という楽しさもあり。
高速道路を制限速度で走っていると、エンジンの振動がスーッと消えて、無音状態の鼓動のなかで、滑るように空気の中を進んでいるような錯覚にとらわれることがある。
Wは今も昔も、そんな透明な世界に連れて行ってくれる。
文:中村浩史