ツーリングモデルとしても広く受け入れられた「YDS-3」
YDS-3 1964〜1967
タンクやシートを始め、フェンダーやチェーンケースなどがほどよくまとまった好デザインのロングセラーが、YDS3。写真のモデルは後期型で、タンク側面の塗り分けがS1以来のものとは異なり、1966~69年まで販売された。
1964~66年の前期型は、いうまでもなく従来のカラーリングである。タンク容量は14ℓで、S1、S2の15.5ℓより少ない。S3に関しては逐次エンジンのチューンが行われ、またTD-1のノウハウも導入されたために、データ上のパワーは各種あり、国内仕様と輸出モデルの差がどの程度かもはっきりとはしない。
明らかなのは、後期モデルがパワーアップされたことだ。また、S2~S3への変更でフレーム剛性も高められているが、これは305ccYM1の26~29psに適応させるためでもあった。
このとき、モトクロッサーへの流用も考慮され、タンク、シート間のパイプが容易に曲がらないように、丈夫にされてもいる。
もちろん、1.6ℓのオートルーブタンクの増設とエアクリーナーの形状変更などで、S1以来の野性味はいくばくか失われることにはなったが、実力の向上は、格段という言葉がふさわしいものだった。
大きく変更のあった車体系は、このショットを見ただけですぐに理解できる。丈夫そうな三ツ叉やS2の710mmから780mmへと幅の広くなったアップハンドル(写真のものはやや小ぶりだが)が、YDSがスポーツと名付けられつつも、ツーリングモデルとしても広く一般に受け入れられていったことを示している。
ハンドルバーについては、アメリカ仕様が790mm幅のウエスタンバー、イギリス仕様では615mm幅の一文字が装着された。また、これ以外にミドルアップの735mm幅のものもあった。
ちなみに、YD3もミドルアップの640mm幅だった。メーターはDS5Eとも同一のデザインで、180km/hフルスケールでハイビームインジケーターがタコメーター下にある。
S3初期型は、160km/hフルスケールで、インジケーターもスピードメーターの上に位置してニュートラル(左)とチャージ(右)の2つだけだった。
オートルーブポンプがミッション側に装着されたS3のエンジンは、クランクケース、クランクを始め、ミッションなどに大幅な改良が施されていた。
クランクシャフト頃はφ20mmから25mmへ、クランピングもφ25→30mmとサイズアップされて、耐久性の向上したユニットとなっている。しかし、新採用となったオートルーブシステムのオイルポンプが、クラッチより後方にあるため、クラッチを切るとポンプが作動しないという特質がある。
このため、DS5Eではクラッチがミッション側に移行、改善されていくことになる。クラッチは容量が増やされ、フリクションプレートが3→4枚となる。
クラッチスプリングはバネ圧も少なく、クラッチレバーは軽い操作で済むようになった。ミッションそのものはS2と同一である。
しかし、YDS3Cのストリートスクランブラー仕様は、①2.500 ②1.667 ③1.227と3速まではS3と変わらないものの、以後④0.960→1.042 ⑤0.750→0.923とクロスしている。また、S3も後期型では、YM18 DS5Eと同変速比の、①2.545 ②1.5330 ③1.1670 ④0.9500 ⑤0.773と2速以上がクロスしたものが出荷車の中に含まれていた。
前モデルであるS2のエンジン型式はD6だが、S3にはD9の刻印が発見できよう。キャブレターは、S1からTD-1まで採用されていたフランジタイプが、S3ではクランクタイプとなり、インテークポートもS2のφ22mmがS3ではφ25mmと、ちょうど1つのキットパーツシリンダーのそれと同径になっている。
このため、初期型は、24psであったが、輸出仕様はVM24SCキャブレター(メインジェット#120~130)で27ps/7500~8000rpmを発揮、最終仕様のアメリカ向けモデルでは、DS5Eと同じVM26SCを装備し、29ps/8000rpmもの高出力を発生したのである。
電装系はS1、S2と大差なく、バッテリーも古河のBMLT24-6か、湯浅のMBF4-6A。しかし、S3からは正式にフラッシャーランプが装着となり、配線はやや複雑になった。
エアクリーナーは2in1の大容量となり、工具からはタイヤレバーとしても使えるスパナとエアポンプが消え、29×29、21×19のメガネ、17×14、12×10.9×8mmのスパナ、プラグとシリンダーヘッド用のボックス、プライヤーとドライバーなどで構成され、新たにポイントスパナと専用タイヤレバーが加わった。
S3では、チェーン引きがプレス製から鍛造のしっかりしたものに変わっている。ホイールアクスルシャフトのナットは車体左側が正しい。リアサスペンションユニットは、スプリングが3段階に調整できるものとなり、その製作工程も今日のものと大差ない方式である。
タイヤサイズは前後とも3.00-18だが、後期型のリアは3.25と太くなる。また、スクランブラーのリアは3.50-18である。乾燥重量は、輸出仕様では145kgとなっている。
なお、S3系キットは、モトクロス用の大型エアクリーナー、シリンダーヘッドやオートルーブオイル供給穴用の埋め込みボルト、オイルポンプのカバーに加え、マグネトー点火装置と新型のアップチャンバーなどがあった。
こうしたパーツで組み上げたマシンで走ったライダーは少なくなかったが、その代表格は鈴木忠男であった。
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