ハイスペックを心地良さにつなげたネイキッド仕様
ゼファーの大ヒットに端を発するネイキッドブームに呼応し、ただ普通に乗ることが楽しめるように意図されたネイキッドスポーツ。
パワーユニットはFZR250Rベースの水冷4気筒で、吸排気ポート長やバルブタイミングを思い切って中低速向けに振り、アクセレーションに優れるミクニBDSTφ26mmキャブやトップをオーバードライブ設定とした6速ミッションを採用。
元々レッドゾーンが1万8500回転からという超高回転高出力型のエンジンを、低回転からスムーズに立ち上がり、アクセル操作に対して穏やかかつリニアに反応し、快適なクルージングが楽しめるユニットへと変貌させている。高回転化による低中速トルクの痩せを補う排気デバイスEXUPも廃止された。
車体関係でも、柔らかな表情の楕円パイプを使った新設計スチール製ダイヤモンドフレームを中心に、シート高を735mmまで削り、ハンドル切れ角も左右各35度を確保するなど、さまざまなシチュエーションを想定して使い勝手を追求。高速券の収納などに便利なタンク上面前部の小物入れやタンデムシートに取り付けられる付属バッグの装備など、新たな試みも導入されていた。
「曲線美」「筋肉質」「躍動感」をキーワードに、『ジャンプするイルカ』をイメージしてデザインされた個性的なスタイリングと、抜群の足着き性、自由度の高いライディングポジションが評価され、女性やビギナーライダーからも高い評価を集めた。
93年2月にハンドルホルダーの形状を変更し、サイレンサーとヘッドライトケースをメッキとした2型にチェンジされ、そのまま99年まで市販が継続された。
Impression
低中速域での扱いやすさをベースにした現代型モデル
90年デビューの最終型FZR250Rのエンジンを低中速での扱いやすさ重視にセッティングを変更し、柔らかなラインの車体に搭載したネイキッドバージョンがジール。サーキット指向のFZRとは対極に位置するストリートモデルとして作り上げられている。
ライディングポジションは車格の割にゆったりしたもので、上半身はごく軽い前傾。肉厚で座面も大きなシートと、初めて乗ったときは違和感を覚えるほどソフトにセットされた前後サスペンションが実に快適な乗り心地を生んでいる。さらにハンドル切れ角の大きさ、足着き性の良さ、そしてラフなスロットル操作にも優しく反応する4気筒ならでは乗りやすさで、女性ライダーにも愛された。
ユニークなのはタンク前方に小物入れを、タンデムシート内に収納式のバッグを備えていること。これは開発陣がコミューターユースを本気で考えた結果だろう。こうした実用性向上の工夫にも、ビギナーや女性ライダーにオートバイの楽しさを広めたいというメーカーの意志が伺える。
撮影車両は整備前の状態で始動できなかったが、20年ほど前に今回の撮影の舞台となった那須モータースポーツランドをジールで走ったときは、サスペンションの柔らかさゆえに急な減速からフルバンクに至るまでの車体姿勢が落ち着かずに戸惑った。
だがブレーキングや寝かし込みのリズムをゆっくり優しく行なえば想定ラインをきれいにトレースでき、タイヤのグリップ限界近くの挙動が穏やかで怖さを感じずに走れたことを覚えている。ハンドリングもストリート走行ペースに合わせて熟成されていたということ。その意味では最新モデルに近いキャラクターと言える。
【ZEAL】 1991年2月 specifications
エンジン型式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量:249cc
内径×行程:48.0×34.5mm
圧縮比:12.0
最高出力:40PS/12000rpm
最大トルク:2.7kg-m/9500rpm
燃料供給方式:キャブレター
変速機型式:常噛6段リターン
全長×全幅×全高:1990×715×1045mm
軸間距離:1370mm
シート高:735mm
乾燥重量:145kg
燃料タンク容量:15L
タイヤサイズ(前・後):110/70-17・140/70-17
当時価格:53万9000円
文:太田安治