往年の雰囲気を湛えるかつての異端児は、時を経て、時代の寵児になろうとしているのか
今年40周年を迎えた鈴鹿8時間耐久ロードレース。本誌の読者なら、あの熱い時間を青春の思い出として心に刻んでいる人も多いと思う。過酷な長丁場にチェッカーが振られた後の、サーキット全体を包む一体感は耐久レースだけの魅力。そしてそこには「耐久レーサー」というオートバイが中心にある。
耐久レースはヨーロッパ諸国で人気のあるレース形態で、ル・マン(ブガッティサーキット)やボルドール(マニクールサーキット)といったフランスのサーキットでは1970年代後半から24時間耐久レースが開催され、たちまち世界的なイベントへと成長した。
当時の耐久レーサーは夜間走行のために装着された大きな丸形2灯ヘッドライトとテールランプ、航続距離を稼ぐ大容量ガソリンタンク、ライダーの疲労を抑える大型スクリーン、トラブル時に修復しやすいハーフカウルなどを装備し、無骨ともいえる外観が独特の迫力を漂わせていた。装備を削ぎ落したスプリントレーサーよりも市販車に近いムードを持っていたため親しみを感じやすく、耐久レーサーを模したカスタムも流行。80年代中盤以降のロードスポーツモデルが丸2灯ヘッドライトをこぞって採用したのは耐久レーサーイメージを採り入れたからだ。
だが、80年代後半になると耐久レーサーのベースとなる市販モデルがネイキッドタイプのロードスポーツからレーサーレプリカ(後のスーパースポーツ)へと移り、耐久レーサーも市販車からウインカーとバックミラーを外しただけの姿が主流となって独特の雰囲気は忘れられていった。
憧れだったレーサームードのカウルに身を伏せながら、人生という耐久レースを走り抜ける……そんな気分が旅を少し、盛り上げる
それだけに2001年にスズキが80年代耐久レーサールックのGS1200SSを発売したときの評価は見事なまでに割れた。
「無骨な耐久レーサースタイルは時代を超えて魅力的」
「時代遅れな耐久スタイルをなぜ今さら」という対極の意見に分かれたのだ。
正直なところ、僕を含めたオートバイジャーナリストの評価は後者が多かったように思う。新型スーパースポーツモデルは高性能であることが必須の時代に、基本設計の古いGSX‐R1100系の油冷エンジンを搭載したイナズマ1200ベースという出自では新鮮味がない。サーキットでの速さを求めるならGSX‐R1000があるし、街乗りやツーリングなら最大排気量の油冷エンジンを搭載したGSX1400、高速クルージングならGSX1300Rハヤブサがある。独自コンセプトゆえにライバル車は見当たらないが、孤高の存在という表現も当てはまらないと感じる業界人が多かった。かといって大型スポーツモデルとして弱点があるわけではないから、ジャーナリストたちも歯切れよく評価することが難しい。もちろん熱烈に支持するファンもいたが、わずか3年弱で生産終了という事実が、セールス面での不振を示している。
しかし、ここ数年で着実に高まってきているネオ・クラシックブームを受け、絶版車市場で80〜90年代モデルの人気が上昇しているという。総じて絶版車の価格は生産終了から約15年間ほど下落し続け、廃車などで台数が減ると徐々に上昇する傾向がある。つまり生産終了から約15年を境に、忘れ去られようとしていた型落ちの中古車から、貴重な絶版車へと変貌するのだ。
加えてネオ・クラシックブームと耐久レーサーというキーワードを追い風にして一躍脚光を浴びているのがGSだ。80年代の8耐を知るライダーには懐かしく、若いライダーには挑戦的な顔つきの最新SSモデルとは違ったスタイルが新鮮に映るだろうし、最新SSモデルの先鋭化したキャラクターは公道で活かしにくいので、ほどほど(と言っても公道では充分過ぎるが)の性能を持つGSが注目されることには納得できる。
参考までに、01年春に試乗した時のメモからインプレッションをいくつか紹介しよう。
「低いハンドルでポジションは深めの前傾。スクリーンが大きいので前傾姿勢を取ればヘルメットまで収まり、走行風圧を受けない」
「エンジンはイナズマよりもスムーズでメカノイズも減っている。長時間ライディングでも疲れが少ない印象」
「中回転域でのトルクが強烈。5速・100㎞/hは約3300回転で、高速道路の追い越し加速は5速ホールドからスロットルを捻るだけで充分」
「ハンドリングは安定寄り。コーナリング限界は最新ネイキッドより高いが、荒れた路面では強いキックバックが出る」
「リアサスのストロークが短く、ギャップ通過時の突き上げが大きい」
改めてメモを読み返すと、スタイルだけではなく乗り味もしっかり耐久レーサー的だったことが伺える。GSは発売から18年近くが経過しているが、エンジンも車体もオーソドックスな構成なので、今乗ってもこれといった不足はないはずだし、例えば高速道路を使って一気に1000㎞走るといったシチュエーションなら最新SSモデルよりも快適。瞬間的な速さよりも持続性が重視される、現代に合ったキャラクター。つまり「男のバイク」GS1200SSは、登場時期が早すぎたのだ。
GS1200SSの印象を思い出すにつれ、30数年前に憧れたフランス・スズキチームのGS1000改耐久レーサー気分に浸り、大きなスクリーンに潜り込んだまま走り続ける自分を想像する。「人生は耐久レースだ」などと嘯きながら。
車種解説 SUZUKI GS1200SS (解説:小松信夫)
2001年に登場したGS1200SSの特徴は、何といってもそのスタイリング。1980年代前半に鈴鹿8耐をはじめとする世界中の耐久レースで活躍した、当時最強の耐久レーサー・スズキGS1000R(前頁のレーサー)そのままとも言える、独特なスタイルだ。
これに搭載されているエンジンが、GS1000Rのノウハウを取り入れて1985年にデビューした初代GSX-R750のエンジンをルーツに、長年熟成を重ねてきた油冷直4エンジンというのも、そのスタイルと違和感ない組み合わせだった。
とはいえ2001年当時、スーパースポーツ人気が盛り上がりを見せる中、カタログに「男のバイク」と謳う、あまりにも無骨で男臭いGSは、販売面では苦戦を強いられる。そこで2001年8月にヨシムラカラーをイメージした赤・黒のツートーンカラーを追加する。
さらに2002年にはスズキワークスカラーの白・青を追加、同時にメーターや燃料タンクを変更するマイナーチェンジを敢行した。しかし、これを最後にモデルチェンジされることもなく、1代限りでGS1200SSは静かに表舞台から姿を消していった。ヘリテイジスポーツが人気を集める現在の視点で見れば、登場するのが早すぎた1台といえるだろう。
SUZUKI GS1200SS SPECIFICATIONS
エンジン型式 油冷4ストローク
DOHC4バルブ並列4気筒
総排気量 1156㏄
内径╳工程 79.0╳59.0㎜
圧縮比 9.5
最高出力 100PS/8000rpm
最大トルク 9.6㎏-m/6500rpm
燃料供給方式 キャブレター[CVR32]
変速機型式 常時噛み合い式5速リターン
全長 2115㎜
全幅 740㎜
全高 1085㎜
軸間距離 1460㎜
シート高 770㎜
乾燥重量 210㎏
キャスター 25°30′
トレール 99㎜
燃料タンク容量 20L
タイヤサイズ(前) 120/70ZR17
タイヤサイズ(後) 170/60ZR17
COLOR VARIATION
発売当初は全身をブラックアウトしたモデルのみだったGS1200SS。しかし2001年8月に追加された、80年8耐ウイナー・ヨシムラGSを模した赤・黒のツートーンカラーの登場で、この独特なスタイルが真の意味で完成したというべきだろう。
文:太田安治、小松信夫