他のモデルでは味わえない豪快なトラッカーテイスト!
インディアンの「FTR1200」シリーズは今年からデリバリーが始まったばかりのニューモデル。
エンジンの外観は同社のハイパワーミドルクルーザー「スカウト」シリーズにも似ているが、中身は全くの別物で、スカウト系より大きな1203㏄。高圧縮、ショートストロークで、120馬力を8250回転で発揮する強力なパワーユニットだ。
見ての通り、フレームは頑丈そうなトラス構造だし、外装はインディアンのフラットトラックレーサーのDNAを感じさせるもの。かつて日本でもカスタムスタイルとして一世を風靡したトラッカースタイルをファクトリーで造り上げた「ホンモノ」の1台だ。
日本で発売されるFTR1200シリーズはスタンダード、S、レースレプリカの3グレードが用意されているが、今回試乗したのはトップグレードのレースレプリカ。そのカラーリングから分かるように、醸し出されるイメージはAMAを制したワークスのダートトラックレーサーだ。
試乗してみると、当然ではあるが、エンジンの回り方がインディアンの他のクルーザーとはまるで異なる。
路面にまとわりつくような粘りはなく、トルクの波動にも重厚感はない。全回転域で、まるで英国製のパラツインのように回る。
1200㏄のツインらしい、ドライなパルス感はあるが、ストレートに9000回転ほどまで吹け上がる滑らかさもある。吹けはパラツインよりは少し重い感触だが、インディアンのVツインとしては初めての軽やかさだ。
パワーバンドはトルクの充実する5000回転以上と、パワーが乗ってくる7500回転以上の2段階で強まる感じ。強力な瞬発力を発揮できる力がある。
全体的にパワフルなスポーツエンジンだが、このFTRはあくまでもトラッカーという個性的なスポーツバイクテイストを魅力の核にしている。
調子に乗ってスロットルを開け過ぎると、車体の限界がやってくるので注意が必要だ。
このFTRは、車体サイズ自体はコンパクトだが、乗ると前後に長く感じる車格になっている。ハンドリングはずっしりめだし、旋回性も穏やかだ。
車体のタッチはスゴく頑丈で、剛性感もある。それに対して、駆動系のダンパーは容量が少なめで、スロットルをポンと開けたときにツイてくるダッシュも硬め。
パワーモードを「スポーツ」にしておくと、ダッシュ時に強めの反動がくる。
こう書くといささか粗野に思われるかもしれないが、トラッカーらしいドリフトパフォーマンスのキッカケを作るのにはいいと思う。
装着タイヤは普通のオンロードスポーツタイヤではなくブロックパターン。
ハイトが高く、衝撃緩和力はあっても剛性は弱めの前後70扁平だ。
この影響が大きいのか、今回の試乗ルートであるタイトなワンディングや、3速でフルバンクさせるようなコースを全開で走ると前後輪とも滑っていた。
ただ、このタイヤと、初期作動のいい上等な前後サスによって、小さなギャップをキレイに吸収する。良路での乗り心地はスゴくいい。
さらに前後タイヤのトラベルはオフ車顔負けの150ミリ。
基本的にバネが硬めなので、今回の試乗では、大きな凸凹は硬めに伝える傾向だったが、まだ走行距離も少なく、サスの慣らしが十分でなかったことも若干影響しているだろう。
FTR1200は、個性的で粋なルックスのスポーツネイキッド。
フラットトラックレーサーのテイストを演出するためにチョイスされた個性的な装備やセッティングがいいアクセントにもなっている。
もちろん、街乗りや峠道ではそこそこスポーティな勢いで遊べるし、太いトルクと元気なパワーに支えられた強力なダッシュ力を武器に豪快な走りをする。
魅力も個性もわかった上で乗れば、他のバイクにはないテイストを楽しめるハズだ。
文:宮崎 敬一郎/写真:南 孝幸