命題はデフォルメ!?
80年代初頭からのバイクブームの中、1983年のRG250Γデビューによってレーサーレプリカ開発競争がスタート。その過熱ぶりはビッグバイクから原付までのあらゆるクラスに及んだ。
そんな1986年、スズキのGAGによって『ミニレプリカ』というジャンルが誕生し、にわかに注目を集める。コンパクトなサイズの中でレーサーレプリカをそのまま縮小したようなフルカウルスタイルを再現したスタイルが特徴だったGAGは、4スト50㏄エンジンを搭載、10インチホイールの採用など、どちらかといえばスポーツバイクというよりもレジャーバイク的な位置づけだった。
しかし、GAGから僅かに遅れて登場したのがヤマハYSR50/80。YSRは12インチホイールを採用したやや大柄な車体サイズと、RX50用をベースにした空冷2ストエンジンによって、小さいながらもスポーティな走りを気軽に楽しめるモデルとして人気を集め、ミニバイクレースにも使われるようになっていった。
こうしてミニレプリカ人気が高まる中、1987年にホンダが満を持してデビューさせたのがNSR50/80だった。先行していたGAGやYSRを、あらゆる面で上回ることを求められて開発されたNSR。そのスタイルは、当時世界GPを席巻していたNSR500のイメージを色濃く反映させながら、ディテールをそのまま3/4スケールにデフォルメした、コミカルさの中にレーシーさを感じさせるデザイン。
フレームはスチール製ながらも剛性の高い本格的なツインチューブ構造で、アルミホイール、前後ディスクブレーキで足まわりを固め、車重も乾燥状態で77㎏と軽量な仕上がりでハンドリングも極めて素直で軽快。
エンジンは水冷2ストピストンリードバルブ、50の最高出力7・2PS、80では12PSといずれも極めてパワフルで、スタイルだけでなく、走りの面でもレーサーレプリカと呼ぶに相応しい高性能を実現。ストリートはもちろん、ミニバイクレースでもデビューと同時に圧倒的な人気を集めるなど、瞬く間にGAG、YSRを駆逐してミニレプリカ人気をNSRが独占するようになる。
1987年のデビュー以後も、1989年にはアッパーカウルのデザイン変更、チャンバーの形状変更、サスペンションのセッティング変更を受け、1992年にはシリンダーヘッドの改良、6本スポークの新型ホイールを装着など、熟成を重ねて人気を盤石なものとしていく。
1995年にはフレームの改良、シートカウルの変更、フロントフォークやリアサスも見直され、さらに完成度をアップ、このモデルが1999年まで生産される最終型となった。しかし最終型をベースに開発された、ミニバイクレース向けのサーキット専用モデル・NSRminiは販売を続行、2009年に惜しまれながら長い歴史の幕を閉じることになった。NSRは長年にわたり多くのライダーを育て、そして今なお根強く愛され続けている小さな名車だ。
SPEC
●エンジン形式:水冷2スト・ピストンリードバルブ単気筒
●排気量:49㏄
●ボア╳ストローク:39.0╳41.4㎜
●圧縮比:7.2:1
●最高出力:7.2PS/10000rpm
●最大トルク:0.65㎏-m/7500rpm
●燃料タンク容量:7.5ℓ
●変速機形式:6速リターン
●全長╳全幅╳全高:1580╳590╳935㎜
●ホイールベース:1085㎜
●シート高:670㎜
●乾燥重量:78㎏
●タイヤサイズ(前・後):100/90-12・120/80-12
●発売当時価格:26万9000円
文:小松信夫