リアルレーサーの兄弟!

ヤマハのフルサイズ50㏄スポーツの歴史は長いが、水冷2ストエンジンを初めて搭載したのは1981年にデビューしたRZ50だ。

RZ250と共通イメージのスポーティなスタイルに、最高出力7・2PSという力強いエンジン、6速ミッション、モノクロスサスという本格的なメカニズムによるスポーティさが人気となり、マイナーチェンジを繰り返しながら80年代末まで生産されるロングセラーとなった。

そして1990年、RZ50の後継モデルとなる、新世代のフルサイズ50㏄レーサーレプリカとして姿を現したのがTZR50だった。

画像: リアルレーサーの兄弟!

TZRシリーズ初の50㏄モデルであるTZR50は、市販レーサーのTZ50と同時開発されたことが話題となった。この両モデルは保安部品の有無以外、レーシーなフルカウルのデザインやフレーム、水冷2ストピストンリードバルブエンジンの基本的な部分でかなり共通点が多く、最大の違いはTZR50が分離給油なにの対し、サーキット専用のTZ50は混合ガソリン仕様なこと。

最高出力もTZRの7・2PSに対してTZは8・3PSとなっているが、逆に言うと目立つ違いはこれくらいで、シャープな乗り味は極めて近いものだった。1992年にはエンジンとサスペンションを改良、またヘッドライトが常時点灯化されるというマイナーチェンジを経て、1993年にはフルモデルチェンジを受けてTZR50Rへと生まれ変わる。

TZR50Rになって最も大きく変わったポイントは何と言ってもエンジンだろう。モトクロッサーのYZ80用をベースにした新型水冷2ストエンジンを採用、ピストンリードバルブからクランクケースリードバルブになり大きく戦闘力をアップしながらセルスターターまで装備された。

スチール製のフレームも補強が加えられたのをはじめ、インナーチューブ径φ30㎜のフロントフォーク、ガス封入式ショックとモノクロスサス、フロントのφ245㎜ディスクブレーキなどの50㏄クラスとは思えない豪華な造りで、車体も大幅にポテンシャルを向上。

スタイリングもリファインされ、テールカウルには雨具などを収納できるユーティリティスペースも用意されるなど利便性も向上された。

このTZR50Rのセル付きの新型エンジン、ミニレプリカのTZM50R用エンジンのベースにもなったが、TZM用のエンジンに加えられたシリンダーのポート形状変更、キャブレターの大径化、CDIの変更などの改良点は、同時にTZRにも反映されてさらに完成度が高まったといえる。

しかしレーサーレプリカの時代はまさに終わりを迎えようとしていた。1997年、TZR50Rの生産は終了し短い歴史を終えた。そしてTZRのエンジンを受け継いで開発された後継モデルが、TZR50の登場によって姿を消したRZ50の名を復活させることになる。

画像: フルサイズ50㏄レーサーレプリカとして人気を集めたTZR50R。写真は1997年に登場した最終モデル。他のカラーバリエーションとしては、白に赤いストロボラインの入ったヤマハカラーが存在していた。

フルサイズ50㏄レーサーレプリカとして人気を集めたTZR50R。写真は1997年に登場した最終モデル。他のカラーバリエーションとしては、白に赤いストロボラインの入ったヤマハカラーが存在していた。

DETAIL

画像: インナーチューブ径φ30㎜の正立フロントフォークに、φ245㎜という大径のローターを使用したディスクブレーキと、50㏄モデルとしては贅沢なつくりのフロントまわりが本格的なレプリカモデルらしい雰囲気。

インナーチューブ径φ30㎜の正立フロントフォークに、φ245㎜という大径のローターを使用したディスクブレーキと、50㏄モデルとしては贅沢なつくりのフロントまわりが本格的なレプリカモデルらしい雰囲気。

画像: 前後のホイールのサイズはフロント16インチ、リア17インチで、90年代的な細身な3本スポークデザインが特徴だ。リアブレーキにももちろんディスクブレーキを採用している。

前後のホイールのサイズはフロント16インチ、リア17インチで、90年代的な細身な3本スポークデザインが特徴だ。リアブレーキにももちろんディスクブレーキを採用している。

画像: 1993年にデビューしたTZR50R、エンジンはYZ80用をベースにしたセル付きのもの。リアサスペンションはリンクレスのモノクロスサスで、ダンパーにはガス封入式のビルシュタインタイプのものが使用されている。

1993年にデビューしたTZR50R、エンジンはYZ80用をベースにしたセル付きのもの。リアサスペンションはリンクレスのモノクロスサスで、ダンパーにはガス封入式のビルシュタインタイプのものが使用されている。

画像: 50㏄らしいスリムなボディの中で、レーシーにまとめらたハンドルまわり。タンク上面、給油口の前方には、ライダーが伏せたときにヘルメットのあご部分をクリアするためのくぼみがあるのがわかる。

50㏄らしいスリムなボディの中で、レーシーにまとめらたハンドルまわり。タンク上面、給油口の前方には、ライダーが伏せたときにヘルメットのあご部分をクリアするためのくぼみがあるのがわかる。

画像: 左側の60㎞/hスケールのスピードメーター、車体中央寄りの1万4000回転まで刻まれ、1万2000回転からレッドゾーンとなっているタコメーター。いずれも視認性に優れたアナログ表示。

左側の60㎞/hスケールのスピードメーター、車体中央寄りの1万4000回転まで刻まれ、1万2000回転からレッドゾーンとなっているタコメーター。いずれも視認性に優れたアナログ表示。

画像: TZR50からTZR50Rとなって、形状が変更されたテールカウル。後端に向けて細く絞り込まれたデザインがシャープなイメージ。上面にふたがあるのがわかるが、これは内部に設けられた収納スペース用。

TZR50からTZR50Rとなって、形状が変更されたテールカウル。後端に向けて細く絞り込まれたデザインがシャープなイメージ。上面にふたがあるのがわかるが、これは内部に設けられた収納スペース用。

SPEC
●エンジン形式:水冷2スト・クランクケースリードバルブ単気筒
●排気量:49㏄
●ボア╳ストローク:40.0╳39.7㎜
●圧縮比:7.3:1
●最高出力:7.2PS/10000rpm
●最大トルク:0.63㎏-m/7500rpm
●燃料タンク容量:10ℓ ●変速機形式:6速リターン
●全長╳全幅╳全高:1880╳605╳1025㎜ 
●ホイールベース:1250㎜ 
●シート高:760㎜ 
●乾燥重量:84㎏
●タイヤサイズ(前・後):80/90-16・90/90-17
●当時価格:29万9000円

『50㏄初のフルサイズ本格スポーツマシン』と、カタログで謳ってます。

TZR50Rは、50㏄のフルサイズモデルとして、それまでの仕様と異なるディティールに目がいくはずだ。とにかく、本気度が違う! 妥協の無い造り込みとパーツチョイスで、ベテランをも唸らせる完成度だった。

ただし、見出しの『50㏄初の……』という文字に思わず疑問を思ってしまったのだが、実際に当時のライバル車を見てみると、納得の宣言である。ライバルと比較するとエンジン出力等は右並びだが、フルカウル装備まで至っておらず、明確な差別化を図ることが出来「初」の文言をカタログに踊らす事が出来たのだ。

同年代ライバル車として、NS50Fはアッパーカウル装備でも「F」だし、RG50Γはレーサー譲りのネーミングだが一世代前の雰囲気が否めない造りだった。

画像1: 『50㏄初のフルサイズ本格スポーツマシン』と、カタログで謳ってます。
画像2: 『50㏄初のフルサイズ本格スポーツマシン』と、カタログで謳ってます。

文:小松信夫

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