新人類には新ジャンル!
YSR50には、ミニトレGT50から発展した、本格派スタイルの原付クルーザー、RX50スペシャルに積まれたピストンリードバルブの空冷2ストローク単気筒エンジンが載っている。7PSの5速ミッション。RZ50用の6速水冷エンジンは使われなかった。
レーサーレプリカの歴史の中で重要な役割を果たした、初代TZR250と共通するスタイルと語られることが多い。しかし、よく見て欲しい、テールカウル、燃料タンク、フロントカウルのナックルガードの形状を。YSRはTZR譲りではなく、グランプリレーシングモデルでエディ・ローソンが駆ってチャンピオンを獲ったYZR500、当時最新のOW81型に似せている。そう、れっきとしたレーサーレプリカなのである。
初期モデルのカラーバリエーションが、白地に赤いストロボラインと、青をベースにした、いわゆるゴロワーズカラーで、今からは考えられないほど話題になり盛り上がったGPレースシーンを彷彿とさせるもの。
発売はスズキGAGと同じ1986年。この年の流行語大賞は『新人類』だった。従来の価値観に縛られない新しい感性を持った若者に対し使われた言葉だ。サーキットの練習走行は予約が出来ないほど混み合い、レースへの参加者も急増。日本中の名だたる峠道には若いライダーが大挙し集まり社会問題化。オートバイ文化の中でもその新人類が主役であった。
新しい価値観という意味では、YSR50も、これまでになないミニサイズレーサーレプリカという新人類をターゲットにした乗り物。一般公道だけでなく、日本各地の小さなコースで開催されたスクーターレースから発展していったミニバイクレースを、もっと盛り上げることにひと役買った。
前後12インチホイールに、初期型はダイヤモンドタイプのスチールフレーム。2ストロークエンジンの小気味良い加速。ホンダが水冷エンジンのNSR50を翌年発売するまで、ミニレーサーレプリカの王者だった。
レーサーレプリカは新陳代謝が活発で、性能争いをしながら常に新たなライバルが登場するのが理。
NSR50という強力なライバルの登場に対応するために、1988年にマイナーチェンジをして、アンダーパイプを装着したクレードルタイプフレームへと剛性を高め、キャスター角の変更など走りの部分をより強化した新しいYSR50を送り出したが、NSRの牙城は崩せず。スズキのGAGと違い、このYSRとNSRは共に80㏄モデルが存在したのも特徴だ。
標準カラーグラフィックに加え、マルボロカラー、テック21カラー、UCCカラーなど、さらにレースをイメージさせる限定色モデルも発売され、革ツナギを着て地面に膝を擦り付けようとリーンして走った新人類のハートを刺激した。
DETAIL
SPEC
●エンジン形式:空冷2スト・ピストンリードバルブ単気筒
●排気量:49㏄
●ボア╳ストローク:40.0╳39.7㎜
●圧縮比:7.4:1
●最高出力:7.0PS/8800rpm
●最大トルク:0.59㎏-m/8500rpm
●燃料タンク容量:8ℓ
●変速機形式:5速リターン
●全長╳全幅╳全高:1575╳635╳930㎜
●ホイールベース:1055㎜
●シート高:650㎜
●乾燥重量:75㎏
●タイヤサイズ(前・後):3.50-12・4.00-12
●当時価格:18万9000円
豪勢に立て続けにバリエーションモデルをラインアップ!
86年5月の発売当初はスタンダードカラー設定として、ヤマハ・ファクトリーカラーとブルーのゴロワーズカラーの2タイプだったが、その後バリエーションモデルを追加する事に。8月には世界選手権にて活躍する「ヤマハ・マルボロチーム」のマルボロカラーを。さらに10月には、その年の夏に開催された鈴鹿8時間耐久レースに参戦した「テック21レーシングチーム(85年:ケニー・ロバーツ&平 忠彦)(86年:平 忠彦&クリスチャン・サロン)」のテック21カラーの特別仕様車を用意するといった、当時の熱の入れようと勢いを感じ取る事ができる。
文:濱矢文夫