本気で遊びゴコロ満載だったが……
ミニレーサーレプリカの始まりはスズキのGAGからだった。
オートバイがたくさん売れて、各社からハイパワーを競った最新のレーサーレプリカモデルが登場し、日本メーカーの4社の間で生き馬の目を抜くような熾烈な争いを繰り広げていた86年という時代にあっても、誰もが発売に驚いた。ハイスペック化の先駆けとなった初代RG250Γ。
脅威の軽さと自主規制上限いっぱいのパワーを持ち400クラスに新しい世界をもたらせたGSX‐R。そしてツーリングモデル的だったナナハンクラスの常識を打ち壊した油冷GSX‐R750。今度はこのGAGだ。この頃のスズキはライバルより一歩先を行く存在で、いわばイケイケドンドンだった。
これ以前にスクーターのJOGをベースにYZR500風にカスタマイズしたものが販売されており、ミニレーサーレプリカという概念が芽生えていたことは確か。ミニバイクレースも盛り上がっていた背景もある。国内販売数の大幅な増加と好調な経済に支えられノリにノッていた日本のオートバイメーカーが目をつけ動き出したことは不思議ではない。同じ年に少しだけ遅れてヤマハからYSR50が発売されたのも納得がいく。
ただ、流石だと唸ったのは、その完成度だ。エンジンこそ4ストロークバーディーをベースにモディファイされているが、ダイヤモンドタイプの角フレーム、角型スイングアーム、シートレールまで角パイプを使う。
テレスコピックフロントフォークにディスクブレーキ、フルカウルでレーシーな外装と燃料タンク、モノショック、まったく違う4種類のポップなカラーグラフィック…。原付モデルとは思えない贅沢な作り込み。小手先で作った感がまるでない、現在ではとうてい無理なコストをかけたものである。カタログキャッチコピーは「遊びゴコロをフルカウル。」だった。
しかし、同じような価格で、2ストロークのパワフルなエンジンを搭載、GAGの10インチに対し、12インチホイールを採用するなど走りを高めた、もっと本格的なYSRが追従するようすぐに出てきたことが、GAGにとって不幸だった。今よりもスペックを重視するユーザーが多く、当然のようにそちらに話題をさらわれ、販売的に苦しむことに。
もしYSRが1年遅く発売されていれば、GAGはもっと多くのユーザーを獲得できただろう。今見てもそれだけの魅力は充分にある。しかし、現代からは想像がつかないほど競争が激しかった、時代がそうさせなかった。「GAGが空冷RG50Eか水冷RG50Γの2ストエンジンを積んでいたらなぁ……」当時の若者の多くがそう思い、そう話題にしたものだ。
パイオニアであり、ミニレプリカ中最もカジュアルでオモチャ的な魅力を放つ。それがGAGだ。
DETAIL
<SPEC>
●エンジン形式:空冷4スト単気筒
●排気量:49㏄
●ボア╳ストローク:39.0╳41.8㎜
●圧縮比:10.3:1
●最高出力:5.2PS/7000rpm
●最大トルク:0.57㎏-m/6000rpm
●燃料タンク容量:7ℓ
●変速機形式:4速リターン
●全長╳全幅╳全高:1540╳610╳870㎜
●ホイールベース:1080㎜
●シート高:610㎜
●乾燥重量:64㎏
●タイヤサイズ(前・後):3.50-10・3.50-10
●当時価格:18万3000円
カタログ出演者全員でギャグを体現している大作といえよう。
当時の有り余るエネルギーと勢いを全面に推し出したかのような、ポップアートチックなカタログ。ネーミングそのものやキャラクターを表現するには充分過ぎる構成。怪獣、ゴリラ、妖怪ナンデモござれの雰囲気の中、なぜだかライダーのヘルメットシールドがやたら曇っているのが気になる……。現在ではコンプラものだろう。
カタログ内の見出しに「遊びゴコロをフルカウル。小さくても大きいギャグ」の文字が踊る……、わからなくもない。
ちなみに、GAGを駆るライダーのことを「走るアーチストたち」と称して、“走るアーチストたちの必携アイテム・遊びココロのフルオプション"を用意。こちら、タンクバッグや左バックミラー、キャリア等のオプションアイテムのこと。