※この記事は月刊オートバイ2019年5月号(別冊付録 RIDE)で掲載したものを加筆修正しております。
バイク乗りの神職
2018年末からYouTubeで『神社巡拝家Channel』という、各地の神社に参拝し、神職の方にお話を伺う番組の配信をスタートしました。毎回、とても貴重な話を聞かせていただいている中で、第3回目に登場してくださったのが、今回訪れた熱海市の來宮神社です。
番組では、宮司の雨宮盛克さん自らが境内を案内してくださったのですが、その時に、なんと雨宮さんが年季の入ったバイク乗りであることが判明!
ライダーの神職の方にお会いできたことがとても嬉しかった僕は、次はぜひ神社拝走記としてバイクで再訪したいこと、その際は、雨宮さんに愛車と共に登場していただけないかとお願いしました。
その依頼をご快諾いただいただけでなく、今回は特別に! 普段は車輌立ち入り禁止の本殿の前まで、雨宮さんの愛車のVMAXと、僕のCB1000Rを入れることを許可していただいたのです。
ところで、写真を見て「あれ!?」と感じた方も多いかもしれません。そう、今回から僕の旅の相棒がCB1000Rに変わりました! 新しい相棒を選んだ理由はいろいろあるのですが、後ほど改めて書きますね。
話を戻して、古来から来福・縁起の神として信仰を集めてきた來宮神社。
樹齢2000年を超える御神木「大楠」は、幹を一周すると寿命が1年延びる、願い事が叶うなどの言い伝えがあり、境内は日々多くの参拝者で賑わっています。
そして來宮神社の年間参拝者数は、約10万人強だった2005年から、2018年までの10数年で、70万人に迫るまで増加しているのです。
新しい神社つくりの挑戦
來宮神社の参拝者数が飛躍的に伸びた大きな要因は、雨宮さんが宮司となってから取り組んできた「心さやかに参拝できる環境つくり」プロジェクトにありました。
プロジェクトの目的は、世代を超えた参拝者に五感(観・囁き・暖・食・香)で神社を感じてもらい、気持ちよく参拝できる環境をつくること。
実際に來宮神社を訪れると、従来の神社のイメージとは異なる様子に、驚かれる方も多いのではないでしょうか。
美味しいコーヒーや、御祭神に縁ある食材を使った『来福スイーツ』が楽しめるオープンカフェがあったり、御神木を拝み眺めながらゆったり過ごせる『大楠五色の杜』という休憩スペースがあったり…。
こうした新たな試みは「もっと大勢の人に、気楽にお参りに来ていただきたい」という願いが形になったものです。
「私たちの仕事で最も大切なことは、神々のお世話を一所懸命にさせていただくこと。ですが参拝にいらっしゃる方々がいかに気持ちよく、神様にお礼を言ったり、祈りを捧げやすい環境を用意できるかも、とても大切な役割です。神社は、神様と参拝者を結ぶアシスト的な存在の『なかとりもち』なんですよ」
雨宮さんが、宮司となったのは6年前。当初はより良い参拝環境のために、何を変えるべきか悩んだそうです。しかし「何を変えるか」ではなく、「何を変えてはいけないのか」を決めることで、新しい神社つくりに必要なことが見えてきたとか。
「昔の神社は、今ほど敷居が高くなかったと思うんです。もちろん今も、真剣にお祀りする場であることは変わりませんが、昔はもっとみんな気軽にお参りして、大勢の人が集まって情報を交換できる場だったのではないかと思います。守るべきところはしっかり守りつつ、神様に心地良く居ていただける場所であり、参拝者の皆さんも気持ちよく過ごせるような、そんな境内を作っていきたいですね」
この言葉を聞いた時に、僕は感動の余り涙が出そうでした。
参集殿の憩いのスペース
インスタ映えする神社⁉
来福から禁酒までさまざまな御神徳が
商売繁盛、健康長寿など多くのご利益がありますが、珍しい『禁酒』の神様としても信仰されてきました。現在は禁煙、禁賭博など『断ち物』の神徳にあやかる参拝者も多いとか。
人と人の縁をつなぐ場所
熱海の地主の神でもある來宮神社の試みは、新しい境内つくりに留まりません。2018年は熱海を訪れる観光客と地域の歴史や情報を結ぶ場所として、『結び葉』と呼ばれる3つの情報発信地を作りました。
その語源は常緑樹である楠の葉が、3〜5月の葉の入れ替え時期に、親の葉と子の葉が重なって結ばれたようになる様を表す言葉。さまざまな繋がりを表す言葉として、俳句の枕詞にもなっています。
「縁結びは男女の縁に限らず、友達とか家族とか、さまざまな縁があります。その縁がより一層固くなり、絆に育つようにと願いを込めてつけた名前です。本当に小さな施設ですが、おかげさまでみんなでワイワイ情報を集めたり、作戦会議をする場として使ってもらっています」
その他にも、來宮神社は地元の方々と協力しながら、観光地として熱海を盛り上げるための様々な取り組みに挑戦しています。一時期は観光客の落ち込みが激しかった熱海ですが、現在はかなり大きなV字回復中て、年間宿泊者数が300万人を超えたとか。こうした現状に、來宮神社の存在が大きく寄与していることは間違いありません。
地域と神社を結ぶ3つの“結び葉
3つの結び葉はいずれも、梅園~來宮神社~宮坂~糸川沿いの桜並木~ジャカランダ散歩道という、散策コースの途中に設けられています。神社の入り口にある「鳥居の結び葉」では、来福スイーツや軽食が楽しめ、神社から徒歩数分の「梅園の結び葉」には、熱海市を一望できる展望台を設置。神社に向かう細い上り坂にある「宮坂の結び葉」では、神社の由緒、地域の情報、天気やニュ-スなどの映像やチラシ、無料Wi-Fiなどを観光客に提供しています。
しかも雨宮さんは、我々バイク乗りに向けても、嬉しい言葉を掛けてくださいました。
「スペースに限りはありますが二輪駐車場もありますし、安心してバイクで参拝にいらしてください。東京から100kmちょっとですし、一泊にも、日帰りツーリングにもちょうどいい距離ですよね。じつは私自身も、東京出張で複数箇所まわりたい場所がある時は、機動性に優れたバイクで行くことが多いんです(笑)。熱海は日帰り温泉施設も多く、旅の途中に温泉を楽しんでいただけますし、伊豆半島の入口なので、時間があればここから伊豆半島一周ツーリングを楽しむのもオススメですよ」
バイクを停める場所があり、参拝できて、しかも境内で椅子に座ってコーヒーが飲める。そのうえ、周辺に魅力的なツーリングルートが満載とは、こんなにもバイク乗りに嬉しい神社はなかなかありませんよね。來宮神社では、未来に向けた、新しい神社のひとつの形を見せていただいた気がして、幸福な気持ちで僕は帰路につきました。
そして最後に、神社拝走記の新しい相棒の話を少しさせてください。僕がなぜCB1000Rを選んだのか。その理由はいくつかあります。
全国の神社を巡るために、長距離走行が快適にできる排気量が欲しかったことや、多い時で一日に20〜30社を巡るため、取り回しが容易な軽いバイクが欲しかったこと。また、カフェスタイルが好きだというのもありました。
そして、ちょっと漠然とした言い方になりますが、僕はニューモデルに乗って、バイクと自分の歴史をイチから新しくスタートさせたいという欲が、すごく強かったのです。
CBという長い歴史を持つシリーズの中で、異端児的に出てきたCB1000R。ですが、僕にとっては初めてのCBであり、ここから僕にとってのCBの歴史が始まるのです。CB1000Rと共に、神社拝走記の旅は続きます!
写真:関野 温/まとめ:齋藤ハルコ
※この記事は月刊オートバイ2019年5月号(別冊付録 RIDE)で掲載したものを加筆修正しております。