無類の従順さと優しさは、今でも光り輝く魅力!
オフロードのエントリーモデル的なキャラクターだったXT200をベースに、速さではなく踏破性を最優先して1985年にデビューしたのがセロー。
その後マイナーチェンジ、モデルチェンジを受けながら2017年9月にいったん生産は終了したが、翌8月に各種新規制に対応して復活、ファンを喜ばせた。それだけに、1月に登場した2020年型を最後に生産終了、というアナウンスには驚いた。僕自身も娘が免許を取ったらセローを買って共有しようと考えていたからだ。
ファイナルエディションは初期型をオマージュしたカラーを採用するが、エンジンや車体構成は変更なし。曲線を多用したデザイン、圧倒的な軽さ、抜群の足着き性で、跨がっただけで安心できるのも特徴だ。
エンジンはシンプルな空冷単気筒。低回転からトルクが出ているうえにギア比も低く、急な登り坂や荷物満載時、無造作なクラッチ操作でも力強く発進する。車重の軽さが活き、適当なタイミングでシフトアップしてもスムーズに速度が乗り、市街地走行も楽。
ただし、70㎞/hあたりから振動が増え、フロントの接地感が徐々に薄くなってくるので快適速度は80㎞/h程度まで。やはり一般道を60㎞/h以下でトコトコ走るのが快適で楽しい。セローの車名は「ヒマラヤカモシカ」に由来するが、舗装路では大人しいポニーに乗っているような感覚になる。
従順なキャラクターのセローだが、ダートに入ると急に頼もしい相棒に変身する。正立のフロントフォークと細身のフレーム/スイングアームは一見すると華奢だが、その剛性バランスとサスペンションのスプリング/減衰力の設定は林道トレッキングやハードセクションに合ったもの。
滑りやすい路面でも前後タイヤが有効なトラクションを発生し、大きなギャップはサスペンションと車体の両方で衝撃を吸収するため弾かれにくい。
これに低回転からスロットル操作に対して忠実に反応するエンジン特性と、低シート高が可能にしたベタベタ足を着いての「2輪2足」走法、軽い車重、大きなハンドル切れ角が組み合わされるのだから、ガレ場や泥濘地、狭い獣道で他のオフロードモデルとは別次元の走破性を見せつけるのは当然だ。
舗装路からダートまでひと通り走れば、セローが指名買いされる理由が判るはず。後継機種の予定はないとのことだから、買うなら今しかない。