まずは先代の「CRF1000Lアフリカツイン」を解説
CRF1000Lがデビューしたのは2016年春。ホンダ伝統のブランド「アフリカツイン」が復活したことは、BMWのGSシリーズに対抗することはもちろん、日本にはまだなじみの薄かったアドベンチャークラスが一気に認知されることにつながった。
僕はこのアフリカツイン、この10年くらいのニューモデルの中で最もたくさん乗ったモデルだ。ロングツーリングでは、九州まで、仙台まで、大阪まで走ったし、日帰りの距離でも数えきれないくらい。
「今から九州まで自走して」って言われたら、一も二もなくアフリカツインを選ぶ。それくらい気に入っているのだ。
2018年にビッグタンクのアドベンチャースポーツを追加したアフリカツインは、2019年にモデルチェンジ。ずいぶん早いサイクルだな、と思ったけれど、新アフリカツインは排気量アップと数々の電子制御充実で、また魅力輝くバイクに生まれ変わったのだ。
新型となった「CRF1100Lアフリカツイン」
新型アフリカツインは、まずエンジンがほぼ新作となった。乗って最初にわかるのは、その排気量アップに伴うパワーアップだ。もう、とにかくトルクが大きくなって力強い!
低回転域からダッシュ力が上がって、スロットルの開け閉めに、エンジンの反応が鋭い! それも、敏感すぎることもなく、ダイレクト。ゆっくり走りたい時にはゆっくり反応するし、キツ目に加速したい時には鋭く反応する。この「ライダーの意志に忠実なこと」が新アフリカツインのキモだと思う。
本来は舗装路ライダーだけれど、あえて濡れ路面もダートも走った。あえて「ドカン開け」した瞬間、あわわわ、とリアタイヤがスピン、車体はナナメを向き始めるけれど、ここはライディングモードを「グラベル」にするだけ。
それでもあえて、意図的にアクセルをドンと開けて滑らそうとすると、リアタイヤはズルル、くらい。今回乗ったアドベンチャースポーツESは、車両重量250㎏、一瞬のフラれが悲劇につながるけれど、そんな心配は皆無なのだ。
ライダーと装備込みで350㎏にも及ぶ、シート高830㎜、最高出力100PSオーバーのモンスターを難なく、まるで250㏄のような気軽さで誰もが乗れてしまう——これがハイメカを搭載した最新モデルの真実なのだろう。
新型アフリカツインは「不思議な現象」で走る場所を選ばない
アフリカツインは、ライダーがまったく普通に走っているつもりでも、リアルタイムに電子制御サポートでライダーを助けてくれている。
それがよくわかるのは、「アドベンチャースポーツES」に搭載された電子制御サスペンションだ。
通常、サスペンションのセッティングというのは、低速時と高速時の作動特性を両立できないのが決定的弱点で、つまり「低速で乗り心地がいいサスは高速でびよんびよん」だし「高速でビシッと安定しているサスは低速域でがっちがち」ってこと。もちろんここまで極端ではなくても、程度の差こそあれ、両立は難しい。これを解決するのが電子制御サスということだ。
いまバイクがどういう動きをしているかは、IMUとストロークセンサー、エンジンコントロールユニット(=ECU)で判断。ライダーはまず、はメインのセットをミディアム/ハード/ソフト/オフロード/USERの5種類から選んでおくことになる。
大きな段差をゆっくり乗り越える時と、同じ段差をハイスピードで乗り越える時は、サスペンションの縮み側&伸び側減衰力が違うし、その時のライダー側が感じる動きは一定——その理想に限りなく近づけてくれる。
高速道路に乗り出す前、一般道でまず「乗り心地のよさ」に気づいたアフリカツイン。道路の凹凸やうねりに、ソフトに沈み、フワッと戻るの繰り返し。それが高速道路に乗り入れての120㎞/hクルージングでも大きな破綻はない。
これは実は、ものすごく不思議な現象! この不思議さを、電子制御サスペンションが助けてくれているのだ。だから、高速道路で、ワインディングで、渋滞路、そしてダート路面と、アフリカツインは走る場所を選ばない!
電子制御がもたらす両立性がメリット
アフリカツインの大きな柱であるDCTも、ハイメカの極みだ。MTのシンプルさと、それによる「素」走りのキャラクターを推すファンも少なくないが、僕はDCTがいい! 事実、実際のユーザー分布はほぼ半々だという。
このDCTも完成度が成熟されていて、まず発進時のスムーズさが滑らかになったし、シフトタイミングも、走行状況に応じて変わっている。DCTモデルが改良されるたびに変速ショックも少なくなり、もはや新型アフリカツインは、アドベンチャーなのかスーパーツアラーなのかの判断が難しいほど熟成してしまった。
けれど、これも乗り方によるもので、ツーリングに使えばツアラーとしての優秀性が際立ち、オフロードを走ればアドベンチャーの完成度がきわだつ。オンとオフ、低速と高速、この「両立性」こそが、電子制御技術のいちばん大きなメリットなのかもしれない。