文:柏 秀樹
リラックス状態での運転を実現するための呼吸法と、フローティンググリップ
4つのフォームがちゃんとできなくても、絶対に欠かせないことがある。それは呼吸と脱力管理の連携だ。脳は酸素がちゃんと行き届いてナンボ。
なので「10秒マインドフルネス」という呼吸法を意識したい。3秒で鼻から息を吸って、7秒かけて息をゆっくり吐き切る。
この呼吸と連動させて3秒で息を吸うときにハンドルをガチガチに握る。両肩を大きくあげながら。息を吐くときにゆっくりと両肩を落としながら脱力しつつグリップを緩めていく。
手のひらがグリップからほんの少し浮いているかなという状態:FGこと「フローティンググリップ」を5分か5kmに一回励行する。
雨でも晴れでも常にこれができる速度でこそ安全な移動であり、本当の練習であり、楽しいツーリングの源になるという基本の流れを忘れないようにしよう。
タイムや順位など人と競うスピードを求めるもっと手前、そして中級・上級になっても常にチェックし続けなければならない最重要ポイントが、これだ。
速度を高めるより、変幻自在のフォームで「余裕度を高める」ことを優先したい
そんなリラックス状態であれば晴れでも雨でもカーブの途中でリーンウィズからリーンインにしたり、リーンアウトにできるし、リーンアウトからハングオフに持ち込むことさえ疲れずに、むしろ楽しくできる。
ひとつのカーブでフォームを自由に変えられる余裕があれば、いきなり転倒することはない。4つのフォームが自在にできるって状態では、ハンドルグリップを握る手は緩やかにできている。
だから上体が動きやすくなっている。その環境を作るのは自分次第ってこと。その環境作りが自分に余裕があるかどうかの目安にもなるってことだ。
物理的なお話を少し加えよう。クルマのタイヤと異なってバイクのタイヤは断面形状が丸い。ということは直立付近も深い傾斜時のラウンド部分も接地面積は大差がない。
タイヤによって、深いバンク状態の方がタイヤのゴム(コンパウンド)が柔らかく、しかも十分な接地面積を確保しているものもあるが、いずれにしても極端なバンクでなければ車体の傾斜=ハイリスクとは限らない。
リーンウィズで世界中の道を走れるが、それだけが絶対的に安全とは限らない
例えば「コーナリングはリーンウイズだけでいいんだ!」と決めても構わないが4つのフォームが自在にできるかどうかを確認しないまま乗り続けるのは、熱いお湯の温度を確認しないでいきなり飲む行為と本質的に同じ。
コーナリングでハングオフをやるのは危険だと頭から決めつけるのも危ない。
頭も腰も含めて上体がイン側にあるということは、その分だけ車体は浅い傾斜で済むわけだから、ハングオフ=危険とはならない。
その逆にリーンアウトのまま走って車体の傾斜角が大きくてもハンドル保持、スロットル操作、前後輪のブレーキ入力などが繊細にできれば、いきなりタイヤが滑ることもない。
世界中の道はすべてリーンウィズで走れる。これは事実だ。しかし、リーンウイズだけでは危険度が増す。バイクは走るほどに体が固まりやすいという実に面倒で繊細な乗り物だからだ。
路面からくる振動。バイクが生み出す振動。冷たい風やヘルメットの重さなどを受け止める体はどうしても力が入ったままになりやすい。だからこそ、体が固まらないように意識しコーナリング中でも積極的に前後左右に体をしなやかに動かせてこそ脳と体は活性化し、バランス補正や周囲への反応速度が確保できると考えたい。
ずっと体を動かさない乗り方は単純に「地蔵乗り」となる。石のように固まる乗り方は事故りやすく、事故でのダメージも大きくなりやすい。
4つのフォームなんか無視してリーンウィズのワンフォームでいいんだ、という考えでは、早く疲れるようになり、瞬時の反応も遅れる。
また、「私は飛ばさないから大丈夫」という考えも、正しいとは言えない。動けないライダーはゆっくり走っていてもリスクは小さくない。疲れも早くなり、意識も早めに覚低状態に陥りやすいからだ。
【まとめ】たしかな操作技術を持ち、正確な状況判断を行なえれば、乗り方による違いは誤差に過ぎない
結論:雨の日でも穏やかに大きく動ける乗り方なら極端な傾斜走行でない限り、安全走行に影響はない。
リーンアウトのフォームにすると深い傾斜走行になりやすいがいきなり危険性が増すわけではない。
ハングオフのフォームにすると同速・同ラインなら傾斜度は少ない。そんな走りも加えられる余裕があるといい。
ラインと速度が一定という前提でコーナリング中でも別のフォームに自在に変更できるなら、雨のバンク走行時の安全マージンはさらに大きいと判断できる。
いずれのフォームもハンドルを持つ手がユルユルのままがベスト。集中力維持のため呼吸と脱力をチェック。たとえ雨でもバンク角に関係なく安全に走ることができる。
以上の要件以外の、乱暴なバンク走行(一気に深く傾斜させるロール速度が速い運転)は雨でなくても危ないのは自明の理。
雨の日に車体のバンク角が浅くても深くても、転ばないライダーになる解決策:4つのフォームの自在性とフローティンググリップの重要性を述べた。
これがちゃんとできると、さらに効果的な練習方法がトッピングできる。それが4アクションだ。
次回はもっと安全、もっと自由に曲がるための4つのアクションについて説明しよう。
文:柏 秀樹
柏 秀樹 プロフィール
大学院生(商学研究課博士課程)の時代に、作家片岡義男氏とバイクサウンドを収録した「W1ツーリング~風を切り裂きバイクは走る~」を共同製作。大学院修了後にフリーのジャーナリストとして独立。以降、ダカールラリーを始めとする世界中のラリーを楽しみながら、バイク専門誌の執筆活動や全国各地でトークショー出演などを行っている。
バイク遍歴60台以上、総走行距離100万キロ以上、そして日本中の主要ワインディングロード、林道のほか世界の道を走ってきた経験をもとに2003年に始めたライディング・アート・スクールをリニューアルして2009年から新たにKRSこと柏 秀樹ライディング・スクールを開校。バイクやクルマの安全と楽しさを一人でも多くの人に熱く伝えることを生き甲斐にしている。