まずは「4つのフォーム」をおさらい
前回は「雨の日に車体を深く傾斜させると危険なのか」というテーマで記事を書いた。
その中で、次の2つのことを提案をした。
走行中に4つのフォームが自由にできること。ハンドルグリップを握る手をガチガチからユルユルにして少し手が浮くほどの「フローティング・グリップ」ができること。
この2つが確認できる走りなら、たとえ雨でもバンク角の深い浅いのリスクに大差ナシと、私は考えている。
【4つのライディング・フォーム】
1.「リーンウィズ」 体と車体の傾斜度合いが同じ状態。
2.「リーンイン」 車体傾斜より上体がイン側になる状態。
3.「リーンアウト」 車体が傾斜して上体が起きている状態。
4.「ハングオフ(ハングオン)」 上体と腰が傾斜した車体よりも大きく内側にある状態。
無理に飛ばすと多大な情報を脳が処理できず、リスクが一気に上昇し、たとえ事故にならなくても極度の疲れを生み出すだけ。
「もう限界です。転びます。滑ります!」とバイクが叫んでいるのにアクセルを緩めず、ハンドルを押さえつけて走るから無用なバンク角になったり、乱暴なブレーキ入力をしてしまう。
が、当の本人はその認識はない。バイクの怖いところはその臨界点がわからないこと。マラソンなら足がもつれたら走れない! と自分で判断できる。バイクは勢いだけで走れてしまう。
つまり、バイクは臨界点を教えてくれない非常に厳しい乗り物だ。ライダーの「感じ取る能力」に100%依存しているのだ。
雨の時はわずかに速度を落として、ちょっと力を抜けば、少々のバンク角など関係なく走れる。雨に通用するテクニックがすべての道の安全と楽しさに通じる。
これこそライダーが最優先すべき技術課題と言えるのだ。
雨天時にも通用する繊細なテクニックには、大前提がある
前回の「4つのフォーム」ですでに触れたが、走行車線の真ん中を維持しながら4つのフォームを正確にやってほしいのだ。
4つのフォームを試したらフラフラしてセンターラインやガードレールに近寄ってしまうようだと、各部の操作が雑か、速度が速すぎて無意識に緊張しているか……もしくはその両方の問題を抱えているのだ。
自分の車線の中央を維持すること、速度を少し下げて一定にのまま走る中で4フォームをやれば自分のウイークポイントはきっと早く見つかり、修正もできる。
たとえば下半身をホールドしてグリップに触れる手をゆるくしたら安定して、自分の車線中央が綺麗にトレースできるかもしれない。ならば他のフォームでも同じようにやってみればいい。
次のステップである「4つのアクション」に焦って進む必要はない。上体を大きく動かしてちょっとでもふらつくようなら、まずはセンターキープしながらの4つのフォームをじっくり完成させよう。
さて、前置きがとても長くなったが、やっと今回のお題へ進みましょう。
バイクを自由自在に操るための「4つのアクション」とは?
例えば曲がり方には4つあると仮定してトライしたい。4つのそれぞれを確認して、あとは組み合わせ自由。
ひとつずつの確認は、高い精度を出しやすい。高精度になれば、セルフチェック能力が高まる。
つまり、うまく乗れない時の処方箋(改善策)がすぐに引き出せる。
何年乗っても上達しないのは、呼吸・脱力管理と4フォームがちゃんとできて、4アクションをきちんと体が理解していないから。なんとなくできると思って乗っているだけだから。
ということで、4アクションは下記になる。
【ライディング能力を上達させる4つのアクション】
① 体重移動
② ステップ荷重
③ タンク荷重
④ 逆操舵
どれが正しいとか間違いとか、やって良いとか悪いとかはまったくない。いずれも自由自在、いつでもどこでもどんなバイクでもスイスイできるぐらいになりたい。
これは4つのライディングフォームとかぶるように思うけど、フォームは結果であって手段ではない。ともかく4フォームと4アクションは密接に関係しているけれどまずは別々に考えて、あとで合流ってことが大事。
① 体重移動
車体垂直で走っている時
直線走行で両手をユルユルにして頭を右のミラー部分まで移動。すると重心が右に移って車体が傾斜。傾斜すると真っ直ぐだったハンドルは右へ切れ始める。
これが体重移動による曲がり方。セルフステアがもっとも穏やか=自然に発生する方法。左旋回も理屈は同じ。見た感じではリーンインのフォームと同じ。
速度が高いほど前後輪の遠心力が生まれる
ジャイロ効果が強いのでハンドルは切れにくい。低い速度ほど車輪の遠心力は弱いので一気にハンドルが切れ込みやすい。アクセル一定でもクラッチを切ってもいい。やりやすい方法でトライすればいい。両方ともトライして曲がり方の違いがあるのか確認しよう。
② ステップ荷重
直進時に手の力を抜いて、ニーグリップをせず、右ステップを一気に踏み込む。すると車体は右に傾斜して同時に右側にハンドルが切れていく。載せる体重は強いほど車体傾斜速度は強くなる。
「①体重移動」で頭をイン側に入れてからハンドルが切れ始めるよりも素早い反応となる。ステップ左側を踏めば左へ舵がついて曲がっていく。
これもスロットル一定かクラッチ切りで曲がり方の違いを確認しよう。
ステップ荷重では一気に車体が傾斜して曲がり始めるため上体は残るから結果的にリーンアウトのフォームになりやすい。
ポイントは、ハンドルを握る力をユルユルにして、ニーグリップはユルユルかまったくしないで曲がりたい方向のステップ(ステップの端)を強く踏み込むことだ。
③ タンク荷重
あまり聞いたことがないだろうが、バイクの車種によってその反応は異なる。直進時に手の力を抜いて、右膝でグイッと内側(左方向)へタンクを押すと車体は左側へ傾斜してハンドルは左に切れて曲がり始める。
これも素早い反応となり、バイクだけ傾斜して上体がそのまま残り、結果としてリーンアウトに形になりやすい。
左膝を内側に押し込むと右に傾斜して右へ。これもスロットル一定かクラッチ切りでトライ。リーンアウトの形になるが、タンク荷重の実感が湧かない場合はステップ荷重と同時併用するとさらにクイックな曲がり方が実感できるだろう。
④ 逆操舵
クルマなら左にハンドルを切ると左へ行くが、直進中(垂直状態)のバイクはハンドルを左に切ると車体は右へ傾斜をはじめて右へ曲がっていく。クルマとは逆の動きをするから逆操舵と呼ぶ。
〈確認方法〉
まっすぐ(垂直)一定速で走る。両手の力を抜いて右手だけを前方向へジーッと押し続けると左へハンドルが切れ、すると車体は右へ傾斜が始まり右方向へ曲がっていく。
クイックにも穏やかにも曲がれ、車体が傾斜する速さ〈ロール速度〉まで自由に選択でき、速度の速い遅いに関係がなく深いバンク角一定の走りも可能。上達すれば①②③よりも狙ったラインを正確にトレースできる。
急激にやりすぎると前輪からのスリップダウンを引き起こすので、わずかにフロントブレーキをかけながらやれば安全率が確保できる。
①②③は先に車体が傾斜して、その後に舵がついて曲がっていく方法。そのためのアクションとして車体傾斜の手段に頭、足、膝を使ってハンドルが自動的に切れていく現象〈セルフステア〉を使う。
対する逆操舵は手をこじるのみ。
舵〈ハンドルのこじり〉を使って強制的かつ瞬時に車体傾斜させてセルフステアを発生させる乗り方でもある。
逆操舵の応用としては右に曲がっている途中でハンドルをさらに右へ切り足すと、逆に車体は起き上がってしまう。
例えば左カーブでコーナリングしている時に対向車がセンターラインを割ってきて、あわや正面衝突か! というギリギリで危険回避するために、左いっぱいに寄るなら、左カーブで右にハンドルを切るということ。切るのは右方向だ。
すると左に傾斜しているバイクはさらに深いバンク状態になって左に寄れるということ。逆操舵はかように瞬時の動きができるから効果的な危険回避テクニックに使えるというわけ。
これに対して左カーブ旋回中に自分の車線のイン寄りに落下物が急に現れたとしよう。落下物の右側に緊急回避したいならハンドルはどうするか。左に切るということ。左に切る。あくまでも左に切り足す。
すると車体はグイッと起き上がって危険回避ができる。ブレーキ操作しながら逆操舵するとさらにタイヤを路面に押し付けるから安全性がさらに高まるのも事実。ちゃんと使えるならばの話だが。
ともかく逆操舵の原理を読んで、どうしても理解できない場合は、安全な環境下で実際にやってみるといい。それでも理解や体感できないなら無理にやる必要はない。
「逆操舵」が役に立つ場面
例えば道幅が1メートルもない非常に狭い道に遭遇。左は崖下で左側に足を着くことはできない。右は草木が生えている山側で足が着ける道。ここをバイクで通過するとしよう。
左側に倒れたら万事休す。そうならないためにどうするか。
ここでも逆操舵が役立つのだ。ちょっとでも危ないと思ったらブレーキをかけながら右側のハンドルを前に押す。つまり崖側にハンドルを切りながら止まれば車体は右に傾斜して右足が着けるから崖下に落ちない。
一般道でも使える。
交差点に差し掛かって赤信号で止まるときに道路の左端が低い。だから足が着きにくくて困る人もいると思う。
足着きがギリギリなら、止まる直前の時速2km/h以下になったらハンドルを左に切る。つまり右手を前に押す。すると右足着地で確実に止まれるってことと同じ。
交差点の停止も崖に落ちない止まり方もワインディングのカーブの曲がり方も危険回避も、やることの基本は同じだ。