ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」試乗インプレ&解説
勝利至上主義の中にも優しい魅力が光る!
「レースで勝てるバイクであるために、徹底的に戦闘力をあげました!」これは、CBR1000RR‐Rが昨年発表された時、プロジェクトリーダーの石川さんが熱く語っていた「目標」だ。
そんなRR‐Rは、エンジンからシャシーまで全て新開発だ。まずエンジン。シリンダーヘッドはカムの駆動方式やロッカーアームに新技術を投入し、ギリギリまでコンパクトに設計。加えてバルブの挟み角を拡大するなど、パワーを稼ぐ工夫にも抜かりがない。さらに冷却、フリクションロス低減を工夫し、218PSを発揮する。
車体周りも新機軸が山盛りだ。メインフレームは肉厚制御の剛性コントロールで高剛性と適度な捻れ剛性を最新のレシピでバランス。シートレール部は別体式だ。これまで踏襲してきたユニットプロリンクもショックの固定方法を変更。接地性を高めている。
そしてこの上級グレードバージョン「SP」にはオーリンズの最新型衝撃応答式電制サス&制御インターフェイスを搭載している。選択したモードごとに減衰力の可変レンジを変えたり姿勢まで制御させることができるものだ。それにプラスして、トラクションコントロール、ウィリー制御、コーナリングABSなどのライディングアシスト群を全て搭載し、それを一括管理してしまう。
パワーだけでなく、それを乗り手に如何にストレスなく操らせるかにも配慮している。これができないとスペックは絵に描いた餅だが、ホンダはこうした配慮が上手い。
新型RR‐Rは、日本の峠道レベルで普通に使えてしまう。街中でもストレスなくエンジンを操れて、乗り心地までいい。このクラスでよくある話だが、暑い日中、エンジン排熱でスネや尻が耐えられなくなるほど熱くなることもなかった。
また、峠道を身軽に、キレのいい旋回性を楽しみながらスポーティな走りを楽しむことだってできる。とくに峠道で光るのが、どんな高速コーナーでも意のままに切り返せて、ライン変更も容易い軽快さと従順さ。これは強力な武器だ。
先代であるCBR1000RRのSPも意外なほど扱いやすいバイクだった。使いやすいパワーと抜群のスタビリティを発揮する足回りを持ち、各種ライディングアシスト群が並外れた扱いやすさを生んでいた。
だが、このRR‐R SPはさらに扱いやすくて快適だ。218PSは確かに強力だが、パワーモードをもっともパワフルなものにしても、ピーキーな出力特性ではない。8000回転、10000回転、14000回転と回るに従って力強さは増すが、その繋がりがすごく滑らか。電子制御の威力は偉大である。勝つためのスペックを最優先しても、扱いやすさの追求はしっかりと機能している。
デフォルト設定された3種のライディングモードをもっとも戦闘的な「1」にしていても、手に負えないじゃじゃ馬にはならないところがいい。ただし、使い切るとなると、乗り手にかなりのスキルと常識を逸脱した速度感覚が必要になるだろう。それはこのクラスの「当たり前」だが、スペックがトップクラスなだけに、ハードルも非常に高い。
仮にそんな使い方をするとしよう。そのときRR‐Rは格段に速くて、身のこなしも鋭く、猛烈にスパルタンになる。操りやすいといっても、誰にでも容易に手懐けられるわけではない。難しいのではなく、とことん奥の深い戦闘力が潜んでいるのだ。
RR‐R SPには細かくセッティングできるライディングモードや、市販スーパースポーツ最強レベルのパワースペックなど、マニアには堪らない魅力が満載だ。
値は張るが、そのプライスに見合った魅力はある。そして、ホンダはやはりホンダだった。RR‐Rは峠道でも魅力的で、決してサーキット以外では楽しめないバイクではなかったのだ。
ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」ライディングポジション・足つき性
シート高:830mm
ライダーの身長・体重:176cm・68kg
このバイクでの公道試乗で唯一、辛かったのがライポジ。前傾が強いのはいいが、ハンドルの絞り角が弱く、肘を張って乗っているような違和感がある。伏せて上体を大きくインにオフセットして操作するための配置だろう。
ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」主なスペックと価格
全長×全幅×全高 | 2100×745×11040mm |
ホイールベース | 1455mm |
最低地上高 | 115mm |
シート高 | 830mm |
車両重量 | 201kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 |
総排気量 | 999cc |
ボア×ストローク | 81.0×48.5mm |
圧縮比 | 13.2 |
最高出力 | 160kW(218PS)/14500rpm |
最大トルク | 113N・m(11.5kgf・m)/12500rpm |
燃料タンク容量 | 16L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 24゜ |
トレール量 | 102mm |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・200/55ZR17M/C(78W) |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
メーカー希望小売価格 | 278万3000円(税込) |
文:宮崎敬一郎/写真:赤松 孝