文:中村友彦/写真:富樫秀明
本企画はHeritage&Legends 2019年8月号内『Z900RSカスタムズ』に掲載された記事を再編集したものです。
スポーツとツアラーの比率は7:3だ
2017年末の登場と同時に世界中で大人気を獲得した、カワサキZ900RS。このバイクに乗ると僕はいつも、売れて当然だな……と感じる。エンジンは低回転から、いや、アイドリング時から、これぞカワサキ4発! と言いたくなるフィーリングを堪能させてくれるし、車体の動きは相当に軽快。大アップハンドルの効果で、アイポイントが高いのも好感触で、どんな状況でも気持ちよく走れる。
そんな特性だから、Z900RSに乗っていると自然にワクワク&ニコニコしてしまうのだ。最近のカワサキはそういう演出が上手くて、僕のようなすれっからしのライダーにも、バイクの原点を思い出させてくれる。
まず、市街地の印象から書いていくと、基本的にはスイスイ軽快である。ただし、スリ抜け的なことをしようとすると、幅広いハンドルとバックミラーが少々気にならないでもない。
ちなみにZ900RSのハンドルは人によって評価が分かれるようで、この形状だからスポーツライディングが楽しめるという説があれば、もっと絞り角が強くて狭いほうが、日本人は馴染みやすいという意見もある。あえて言うなら僕の気持ちは前者寄りだが、兄弟車のCAFEが装備する、絞り角が強くて狭くて低いハンドルに違和感がないことを考えると、後者の意見もアリなのだろう。
バックミラーは、幅が広いのは事実だけれど、形状がいわゆるZ2タイプでありながら、きっちり防振対策が施されていること、そして後方視界が良好なことに、メーカーならではの真摯な姿勢を感じる。その一方で、基本形状がほぼ同じでステーが短い、現行W800用を試してみたいところだ。
高速道路を走って感じるのは、風当たりの強さだ。現代の一般的なスポーツネイキッドと比較すると、上半身が起きている上にヒザ下が直立気味のZ900RSは、とにかく身体に走行風がよく当たる。でもそれが気になるなら兄弟車のCAFEを選べばいいのだから、問題ではないのだろう。むしろ個人的には、ダイレクトな走行風が心地いいと思えた。
往年のZと同様にスポーツ&ツーリング、そしてカスタムが楽しめる
続いては峠道での印象。これはもう、楽しい! のひと言。グローバルモデルとして開発されたはずなのに、Z900RSは日本の道路事情にマッチした特性を備えているのだ。
具体的には、5000rpm以下しか使えない状況でも、エンジンはなかなかの高揚感を味わわせてくれるし(吹け上がりが気持ちいいだけではなく、エンジンブレーキのかかり方や振動の残し方にも感心させられる)、ハンドルが操舵の道具として有効に使えるから、見通しが悪くて狭い道でもサクサクと車体の向きを変えられる。
さらに書けば、バンク時のライディングポジションの決まり具合、外足のフィット感も絶妙だし、ここぞという場面で頼りになるフロントまわりの剛性感も特筆すべき要素。絶対的な速さは驚くほどではなくても、ストリートが楽しいスポーツネイキッドとして、Z900RSはきっちり作り込まれているのだ。
ただし、Z900RSはすべてにおいてパーフェクトなバイクではない。ある程度の距離を走ると腰や尻、ヒザなどに痛みを感じるし、心身が疲れた状態だと、開け始めのスロットルレスポンスの唐突さも気になって来る。
そんな状況で思い出したのは、カワサキビッグネイキッドの先祖に当たる、ゼファー1100とZRX1100/1200系だった。改めて振り返るとあの2機種は、Z900RSよりツアラー的な資質を備えていたと思う。もっともだからと言って、Z900RSよりゼファーとZRXが優れているのかと言うと、そういうわけでもない。このあたりは優劣ではなく比率の問題で、Z900RSのスポーツ:ツアラーの比率を7:3とするなら、ゼファーは5:5、ZRXは6:4、という印象だったのである。
カワサキが意図したかは定かではないけれど、試乗後の僕は、頭の中で数々のカスタムプランを練っていた。快適性に物足りなさを感じた身としては、純正オプションのハイシートや、作動性に優れるアフターマーケットのリヤショックを装着してみたいし、スロットルレスポンスも調整したい。もちろん、マフラー交換やブレーキのグレードアップも面白そうだし、タイヤの交換時期が来たら、上質な乗り心地が期待できるミシュラン・ロード5や、ダンロップTT100GPラジアルなどを試してみるのもいいだろう……。
そして、そんなことを考えている最中に、ふと思ったのである。このバイクには往年のカワサキ大排気量並列4気筒車、Z1系やGPZ900Rシリーズ、前述したゼファーやZRXなどと、同様の血が流れているんじゃないかと。
もちろん、各部の構成や乗り味、メーカー内での位置づけという見方をするなら、往年のカワサキの名車と現代のZ900RSに共通点はほとんどない。でもZ900RSは、往年のカワサキの名車と同様に、スポーツライディングとカスタムが楽しめるモデルなのだ。
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Detailed Description【詳細説明】
内部が6室に分かれたLEDヘッドライトには、クラシックなテイストを阻害しているという意見もあるけれど、明るさはやっぱり抜群で、夜の峠道では心強い味方になってくれた。
ハンドル切れ角は、倒立フォークの車両としては多めの左右各35°。兄弟車のZ900は同32°で、ZRX1200系では同38°だ。中央部が太いテーパーハンドルは、操舵の武器として有効なもの。
メーターまわりは、今となっては液晶式よりコストがかかると言われている指針式だ。個人的に少々気になったのは、カード非挿入時に、赤いETCランプがずっと点きっぱなしになることだった。
ルックスは旧車的なZ900RSだが、コーナリングでアウト側の内足が、ピタッとフィットする燃料タンク+サイドカバーには、現代のスーパースポーツと同じ思想が感じられる。
本文に書いた下半身の痛みは、座面高がSTD+35㎜の835㎜となるオプションのハイシートを採用すれば、おおむね解消できそう。ちなみに、欧米仕様の標準はハイシートなのだ。
ステップ位置は現代のネイキッドと比較すると、前方かつ下方となっている。スポーツライディングを考えると、もう少し上方&後方に移動したいところだけれど、ツーリングを重視するならこの位置で正解かもしれない。
ボア×ストロークがφ73.4×56㎜という数値は、現行カワサキ並列4気筒エンジンの中では、ロングストローク指向なもの。本文では触れていないけれど、アシスト&スリッパークラッチの出来は素晴らしいものだった。
オイルフィルター/ドレンボルト周辺のレイアウトは非常にスッキリしたものだ。この構成なら往年のZ系やゼファー、ZRXなどのように、マフラー交換時に問題が生じることはないだろう。
標準タイヤはダンロップGPR-300。ラジアルポンプマスター+ラジアルマウントキャリパーのフロントブレーキのタッチと、φ41㎜倒立フォークの動きは、残念ながら極上とは言い難かった。
Z900RSのデビューから時間が経ち、すでにナイトロン製ショックを装着したデモ車を体験した僕としては、どうにも物足りなさを感じた純正のリヤショック。単純に硬いのではなく、ダンパーがバネの動きをフォローできていないようにも思えるのだが…。
φ250㎜ディスク+片押し式1ピストンというリヤブレーキまわりの構成は開発ベースになったZ900と同じだが、リヤブレーキの主要部品は専用設計に変えられている。そのかいあってか、こちらは非常に扱いやすかった。
ドライブチェーンは、近年のカワサキビッグバイクで定番になっているエヌマのThreeDタイプ。そんなに目立つパートではないが、アフターマーケットでも定評の同品装備は、オーナーにとって嬉しいことだと思う。
【SPECIFICATIONS】
●エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒948cc
●最高出力:82kW(111PS)/8500rpm
●最大トルク:98Nm(10.0kgf・m)/6500rpm
●車両重量:215kg
●全長x全幅x全高:2100×865×1150㎜
●軸間距離:1470㎜
●シート高:800㎜
●キャスター/トレール:25.0°/98㎜
●タイヤサイズ:120/70ZR17・180/55ZR17
●燃料タンク容量:17L
●メーカー希望小売価格:消費税10%込135万3000円(2020年モデルの価格)
文:中村友彦/写真:富樫秀明
本企画はHeritage&Legends 2019年8月号内『Z900RSカスタムズ』に掲載された記事を再編集したものです。