この記事は月刊オートバイ2011年8月号別冊付録を加筆、修正、写真変更などの再編集を施しており、一部に当時の記述をそのまま生かしてある部分があります。
ホンダ「CB750F」誕生の歴史
アメリカ制圧を果たしたCB750FOURの後継となるホンダの第2世代世界戦略ナナハン、「F」
1969年デビューのCB750FOURは世界のオートバイ勢力図を塗り替えると同時に、新たなライバルを生み出すことにもなった。量産モデル世界初の4気筒エンジンを搭載したスーパースポーツであるCB750FOURとそれ以降のライバルたち。当然、後発の者たちは完成度を塗り替えてくる。
CB750FOUR最大のライバルは、ほぼ同時期に開発がスタートし、発表の段階においてホンダにわずかに先を越されたゆえ、750ccを900ccとして再出発を図った、カワサキ900スーパーフォア、いわゆるZ1である。Z1は、当時の世界ナンバー1マーケットであるアメリカ市場で、ナナハンより150cc大きい排気量というアドバンテージも手伝って、アッという間にナナハンを越えるシェアを築き上げた。
そのZ1を越えるべくホンダが用意したのは、排気量でさらに100ccのアドバンテージを持つスーパースポーツ。それが実は、1974年に登場したGL1000だった。しかしGLは、シャフトドライブに革新的な水平対向4気筒というレイアウトも手伝って、図らずも最高のツーリングバイクという評価を生むこととなり、対Z1とはまったく違う、新たなカテゴリーの人気モデルとなっていく。
さらにホンダは、1000ccの空冷並列6気筒というモンスター・CBXを生み出すものの、CBXも新たなカテゴリーとして捕らえられ、決してZ1と同じ土俵には上がらなかったのである。このGLとCBXは、ライバルと同じもの(=並列4気筒)ではなく、違う方法で打倒するという、ホンダらしいスピリットのこもった挑戦と言っていいだろう。
あらためて打倒Z1、そして刻々と迫り来るスズキやヤマハの新しいライバルを引き離さんとする、新しいスポーツバイクを作るために、ホンダがイメージリーダーとしたのは、レーシングマシンだった。それが、ナナハンの並列4気筒エンジンを使用した耐久レーサー、RCB。
そのテクノロジーをフィードバックした、6気筒CBXと同じDOHCヘッドを持つニューエンジンの開発に着手。ターゲットは、ナナハンが切り拓いたアメリカ市場より、ホンダとしてはいまだ手付かずだったヨーロッパ。連合軍のフランス上陸作戦になぞらえて、ニューモデルのプロジェクトを「ノルマンディ上陸作戦」と呼んだという。
ホンダ「CB750F」ショートインプレッション(本誌・中村浩史)
デザインを一変させた流麗なストリームライン
CB750FOUR誕生からちょうど10年。第2世代と呼んでいい空冷並列4気筒エンジンを採用したFは、そのルックス、その乗り味とも、まったく新しいオートバイに生まれ変わっていた。
どことなくずんぐりとしたスタイリングCB750FOURに対し、Fはスラリと伸びやかなヨーロピアンデザイン。その乗り味は、一新されたダブルクレードルフレーム、DOHCヘッドのおかげもあって、見事に軽快感のあるものに様変わりしていた。
当時、撮影用にお借りした車両は、大掛かりなレストアでなく、基本的な整備を施した1981年モデル、CB750FBだ。
まず驚くのは、そのピックアップのよさ。ナナハンが、重厚感タップリにズオッ、ズオッと吼えていたのに対し、バン、バン、とタコメーターの針が踊る瞬時の反応を見せてくれる。乗り味もいたってスムーズで、半クラッチを意識することなく、回転トルクでスルリと発進が可能。ナナハンの独特なサウンドがないからか、スムーズでシルキーな低回転トルクだ。
パワーが盛り上がってくるのは3500回転あたりからで、現代のエンジンと比べると、確かに高回転まで回り切るイメージは少ない。しかしスピードの乗りは充分で、シティランを2000~5000回転あたりで充分カバーできる。
さらに言えば、2008年まで販売されていたRC42ことCB750に比べても、力強さで劣っていない。もちろん、現代の騒音、排気ガス規制をクリアしたRC42と比べては酷だが、1981年モデルだというのに、ほとんど古さを感じさせないのだ!
車体の動きは、さすがに長い年月を経過したモデルだけに完全コンディションではなかったが、このパワー、この時代のタイヤ(ちなみに試乗車はTT100を装着)にはちょうどいいバランスで、ゆさっとピッチングの大きい車体やソフトさの際立つ乗り味などは、この30年間で進化したサスペンションやタイヤの装着で、充分に現代レベルの「楽しい」走りができるだろうと思う
古さを感じさせないエンジンと、充分にアップグレード可能な車体まわり。この過不足ない楽しさは、CBRはもちろん、RC42でも味わえないもの。ライダーがしっかり操ることができて、調子に乗るとタイヤや車体の挙動がきちんと警告を与えてくれる、人間らしいフィーリングという感じだろう。