200馬力越えの大パワーは電子制御装備があってこそ成立する
リッタースーパースポーツのピークパワーは、いまや200馬力オーバーの世界に到達している。
CBR1000RR-Rは218馬力。YZF-R1も200馬力だ。しかしこの両車、背伸びしたスペック競走ゆえの「大台越え」では決してない。従来モデルよりそのパワーを扱いやすく制御しつつ、より強力なパワーを実用化しているのだ。
扱いやすさの要因をひと言で言うなら「電脳制御の進化」によるところが大きい。今では常識となったIMUによる車体挙動の検出とシンクロしたトラコンやウィリーコントロール、エンブレコントロールなどといったライディングアシスト機構群の進化。そしてスロットルのライドバイワイヤー化とそれを制御するCPUの進化といったところだ。
アクセルをライダーが開けると、どれくらいの力が欲しいかがECUに伝わり、それをどう取り出すかをECUが判断。ちょうど良い分の開度をスロットルバルブに与え、FIに燃料噴射量の指示を出して遂行。点火タイミングなども微妙に変えている。
これらの全ては200馬力を「使えるパワー」に転換するためだ。
ここに挙げた電子制御アシスト機構群はYZF-R1/R1M、CBR1000RR-Rにはどちらも標準装備されている。それでも力余ってスピンしたり、スライドしたりフロントが天を向く場合もあるが、その際のフォロー機構も備えているのだ。
一度、試しにCBR1000RR-Rでトルクコントロールを最弱、ウイリー制御をオフにして、それまでと同じようなペースでコーナーを走ったことがある。立ち上がりが元気で「コレはいいぞ!」と思ったのは束の間。フロントはバイクがまだ寝ているうちからリフトするは、スライドも掛かるわ…で、すぐやめた。
YZF-R1Mでもそれに近いことを恐る恐るやってみたが、結果は同じ。だが、滑り出しなどは多少制御しやすかった。タイヤ銘柄の違いかパワーの違いか、エンジンフィールの違いかは不明。ただ、いくらお試しでも、アシスト機構をオフにして走るのは薦めない。
いまやスーパーバイクレーサーでさえ、介入度の多い少ないはあるにしろ、こうした制御の恩恵を受けている。すでに15年ほど前から、普通の人間の反射神経では対応し難いパワーがこのクラスには備わっていた。YZF-R1やCBR1000RR-Rにはそれを安全に御すための「武器」が備わっているのだ。
文:宮崎敬一郎/写真:赤松 孝、南 孝幸