文:太田安治、小松信夫/モデル:葉月美優/写真:松川 忍
ベスパ「プリマベーラ150」試乗インプレ(太田安治)
道路状況に左右されない小気味よさ
イタリア語で「春」を意味するプリマベーラは、1968年に登場したスモールボディシリーズ。1982年にいったん生産を終了したが、2014年に新生シリーズが登場。日本に正式導入された。車体構成は共通だが、エンジンは日本国内で原付二種に区分される125cc版と軽二輪扱いの150cc版の2種類がある。試乗したのは高速道路(自動車専用道路)も走れる150cc版だ。
同社のLXシリーズに比べると車体が一回り大きいとはいえ、同クラスのスクーターの中ではコンパクトな部類に入る。東京の都心部を彷徨いながら4時間ほど乗り続けたが、余裕あるライディングポジションと座り心地良好なシートで終始快適に走り回れた。
東京都心部は意外なほど坂道が多いが、登り坂での発進加速で余裕を感じたのが150ccエンジンのパワー。高回転をキープして加速力を稼ぐ設定ではないのに、動き出しのもどかしさや登坂性能不足を感じることがない。さらには市街地で多用する30~60km/h巡航でのスムーズさ、そこから再加速するときにも、エンジン特性と変速機設定、両者のマッチングに長年培われたベスパのノウハウが活きていることを実感できた。
このプリマベーラの前に試乗していたLXと大きく異なるのが操縦性。LXはとにかく軽快で小回りが効くが、60km/h以上になると直進安定性に若干の物足りなさを感じる。対して車体が一回り大きく、前後に12インチホイールを装着しているプリマベーラは低速域からハンドルに適度な手応えがあり、路面のギャップ通過時も車体が落ち着いて反応する。直進性も充分で、高速道路での80km/hクルージングも何ら問題なしだ。
LXは純然たるストリートコミューターとして作り込まれているが、プリマベーラ150はプチツーリングまでも楽しめるキャラクター。試乗車にはオプションのスクリーンとテールバッグが装着されていたので、天気のいい日には少し足を伸ばしてピクニックツーリングでも、と夢が広がる。
そういえばベスパブランドを世界に知らしめたのは、名作映画『ローマの休日』で主役の二人がタンデムでローマ市内を駆ける姿だった。移動の道具としての実用性や価格を重視するなら他にいくらでも候補はあるが、親しみ、愛おしさという点で抜き出ているのがベスパではないだろうか。「買う」のではなく、「飼う」という表現が適切と感じる一台だ。