ホンダ「スーパーカブ110」通勤インプレ
街中を普通に走る速度がスーパーカブ110の楽しい速度
クルマが行き交うビル群の中、カラカラカラカラと足元からエンジン音が聞こえる。幼いころから毎朝のように聞いてきた耳馴染みのある音だ。スーパーカブに乗るたびに思う。「カブに乗っている」ということ自体が何だか嬉しい。
信号が青になり、スロットルをひねる。全開だ。若干のタイムラグの後、地面をグリップ力の高いシューズで蹴ったときのような力強い加速がやってくる。
すぐに2速、3速へとシフトアップ。カチョンという小気味いい音の後、力がすっと抜け、車体はスムーズに再加速する。あとはだいたい3速のまま、次の信号で止まる。その繰り返し。ただの発進と停止がカブだと楽しい。
スーパーカブ110のミッションは4速。だけど僕の通勤ルートである新宿~新橋の約7kmでは、ほとんど4速は使わない。信号のつながりがよくなったときだけ、トップギアに入れた。
都内の交通の流れに身を任せているときの速度、それがそのままスーパーカブ110の快適な速度だと思う。
「誰よりも速く」なんていう気持ちは微塵もわいてこない。というか、無理だ。信号待ちではPCXをはじめ、快速自慢の原付二種たちとよく並ぶ。だいたいは交差点内で2~3馬身は置いていかれる。
ただ後続のクルマよりは、少しだけ早い。だからもたもたして迷惑をかけることはない。
加速と制動力は、充分にして穏やかなもの。このくらいスロットルをひねるとこのくらい進む、このくらいブレーキを握ればこのくらいで止まれる。それが乗り出して数分で分かる。自分の頭で描く数秒先のバイクの動きと位置がそのまま再現される。
毎日通勤するバイクとして、これほど安心感がある機種は珍しいかもしれない。日によっては、体調がすぐれない、疲れている、眠たいなど、「バイクに乗れないほどではないけど、ほんのちょっとだけ不安」に感じるときがあるだろう。スーパーカブ110の安心感は、それを補ってくれるマージンともいえる。
カラカラカラカラと鳴る慣れ親しんだ音は、心を落ち着けてくれる。
「バイクに乗っている」ではない。「カブに乗っている」。音からも乗り心地からも、いつもそう思っていたのだと、2週間の通勤生活を終えた後に分かった。
スーパーカブ110とスーパーカブC125&C125・ハンターカブの比較
スーパーカブ110で通勤生活をおくったのは、2021年2月下旬から3月上旬の2週間ほど。その少し前には、スーパーカブC125とCT125・ハンターカブに乗る機会があった。
C125&CT125と比較すると、スーパーカブ110がカブシリーズの基本であることがよく分かる。
C125は、カブ界のスーパースポーツと思えるほど、車体がカッチリとしている。瞬発力・制動力が高い。フロントにディスクブレーキを採用していること、キャストホイールを装備していることがとくに大きく感じる。スーパーカブ110と比べると、キレッキレだ。
CT125・ハンターカブは、見た目のワクワク感のとおり、ツーリング適性が高い。サスペンションの動きが抜群によく、長距離も快適で、ちょっとしたオフロードならノーマル状態でもへっちゃら。着座位置が高くポジションがゆったりしているものいい。ただ、通勤で毎日乗ることを考えると、スーパーカブC125や110の方がラクと考える人も多いと思う。
スーパーカブ110を基本とし、スーパーカブC125は「スポーツ」に、C125・ハンターカブは「ツーリング」に、それぞれ振っているというわけだ。
ちなみにもう一台のクロスカブ110は、スーパーカブ110とハンターカブの間くらいの立ち位置。スーパーカブ110と排気量も同じで、共用パーツも多いため、スーパーカブ110をベースにツーリング性能をアップした仕様といえる。
そして基本となるスーパーカブ110は、価格も魅力。装備面は極力シンプルにし、「カブである」ということ以外に主張がない。いわば生成りの状態。そのままでもいいが、好みのスタイルへと変えやすい。
スーパーカブ110で通勤を始めてから、街を走るスーパーカブ110にあらためて注目してきた。ほとんどのオーナーが思い思いのカスタムを行ない自分仕様に仕上げている。
日常の相棒として使い込んでいると思われる車両には、だいたいキャリアにボックスが備わっている。市販のトップケースも多いが、ホームセンターなどで売っているプラスチックケース(通称:ホムセン箱)も人気だ。
次いで大型スクリーンを装着している車両も目立つ。あとは電源システムとスマホホルダーは定番カスタムのよう。
僕も通勤ライフをはじめて2日目に、リアキャリアにシートバッグを装着した。その後は積みっぱなしだ。
今回、借り物の車両のため派手なことはできなかったが、もしオーナーになったら「通勤&ツーリングスペシャル仕様」というコンセプトでカスタムするだろう。
晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も年中乗りながら、コツコツと理想のカブを作り上げていく。そんなスーパーカブ110と過ごす日々は、休日に愛車で出かけるのとはまた異なる楽しみとなるはずだ。