文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸/モデル:木川田ステラ
ベネリ「TNT125」インプレ・解説(太田安治)
高級感ある造り込みと元気のいい走りが光る
1911年にイタリアで創業したベネリ社は、精緻なメカニズムのエンジンを得意としたメーカーで、1960年代には世界GPシーンでも大活躍。1973年には量産市販車初となる6気筒750ccエンジンを搭載した「セイ」、1977年には4気筒250ccモデルの「クワトロ」を発売し、その技術力を世界に知らしめた。現在は中国企業の傘下にあり、250cc以下の小型モデルで復活を果たしている。
TNT125はベネリブランドのミニマムモデル。「TNT」という名前は同社のスポーツネイキッドシリーズ「トルネード・ネイキッド」の略称。前後12インチホイール採用のコンパクトな車体に125cc単気筒エンジンという組み合わせは、日本やタイで人気を集めているホンダ・グロムと同じ構成。実際車格もかなり似通っているが、乗り味はグロムとはかなり違っていて、穏やかな性格のグロムに対し、TNTは元気いっぱいの走行性能を秘めている。
エンジンはSOHCながら4本の吸排気バルブを備え、ボア×ストロークはほぼスクエアの54×54.5mmという高回転型のレイアウト。実際に乗ってみると、ゼロ発進では丁寧なクラッチ操作が必要で、5000回転あたりまでの加速はおとなしめに感じる。
しかし、7000回転に近付くにつれて、シート下に配置されているFIのエアインテークからエキサイティングな吸入音が響き、グッとパワー感が増してくる。そこから9500回転まで「そうだ、ここを使ってくれよ!」と、まるでエンジンが喜んでいるかのように気持ちよく回り、レブリミッターが作動する1万回転まで一気に吹け上がっていく。タッチのいい5速ミッションを駆使して約11馬力のパワーを余すところなく引き出しての走りは爽快そのものだ。
ガンガン回したくなるエンジン特性に合わせ、がっちりしたトレリス型フレーム、倒立フォーク、長めのスイングアームには高い剛性が与えられ、前後サスペンションもややハードめの設定。それだけに漫然と乗っているとギャップ通過時の突き上げが大きく感じるが、加減速のピッチングモーショ
ンを活かすような積極的なライディングをしてやれば、ライダーの意思に忠実に反応する。
エキサイティングな走りを堪能し、各部パーツの高級感ある作り込みを実際に目の当たりにすると、約33万円という価格設定は驚異的に安いと感じるはずだ。