文:中村浩史/写真:折原弘之
ヤマハ「SR400」発売からファイナルエディション登場までの歴史
初登場からキミは充分にオールドタイマー
ヤマハ・SR400は、ホンダ・スーパーカブを除く、国産オートバイの中で、最も長寿なモデルだった。
誕生は1978年3月。人気絶頂だったキャンディーズが「普通の女の子に戻りたい」と解散コンサートを開いたのが4月、ジャイアンツの王貞治選手が800号ホームランを打ったのが8月だった。
オートバイで言えば、並列6気筒DOHC24バルブのホンダCBXがデビュー。これから1980年代を迎えようとする時代に、オートバイは4気筒へ、DOHCエンジンへと、高性能化を突き進もうとしていた。
そんな時代にSRは登場した。500ccオフロードモデルの空冷SOHC2バルブ単気筒をベースとした400ccエンジンを、なんの変哲もないスタンダードなシルエットに搭載したその姿は、当時ですら充分に古臭かった。
同じクラスには、3バルブツインのホンダCB、DOHCツインのスズキGSがあり、カワサキは2ストロークトリプルのKHを持っていたし、翌年にDOHCエンジンの400FXをリリースする。
もちろん、オートバイはやっぱりシングルだよナ、という熱狂的な声はあったにせよ、ごく少数。こうしてSRは、生産中止になるほど不人気ではないけれど、人気モデルでもない、という立ち位置で販売が続けられるのである。
徐々にSRの存在が強くなってきたのは、まわりのオートバイたちがどんどん先鋭化していってからだ。80年代初頭には、英国車を模したファッションカスタムが、走らないはずの空冷単気筒を力いっぱい走らせるシングルレース向けチューニングバイクが現われるようになる。
街中にすら水冷4気筒DOHCエンジン、フルカウル、アルミフレームがあふれた80年代終盤、いよいよSRの存在感は際立っていく。
ピークは90年代中盤。SRの異常人気が爆発する。
90年代を迎える前にあわや生産中止の危機に
実はSR人気は、1989年に底を打ったことがあった。年間販売台数は1500台そこそこで、おそらくSRの販売期間中最低ランクの数字。
ちなみにその年の400ccクラスベストセラーはVFR400Rの約1万台! SRは、この31年後の2020年にさえ約2500台が販売されている。ヤマハ社内で、何度もSRの生産中止が真剣に討論されていた時期だ。
しかしSRはそこから盛り返した。一度はディスクブレーキ化したのにドラムブレーキを再採用する。そして、レーサーレプリカブームも終焉。ミドルクラスにネイキッドモデルがあふれる中、新顔たちよりずっと以前から「本物のオールドマン」SRがいたのだ。
ついに96年には約9000台まで販売台数を伸ばし、SRはベテランエンスージアストも、免許取り立てのファッションバイカーも虜にする。
この頃はショップによるSRカスタムも最盛期を迎え、シングルレーサー系からスポーツバイク風、クラシックテイストにトラッカースタイルのSRが生まれたのだ。
生きながらえてきた恐竜に排気ガス規制が襲い掛かる
SRの転機は2000年代にやってきた。ちょうどこの頃、市販モデルに厳しい排気ガス規制がかけられるようになり、空冷+キャブレターのSRが、いよいよ存続の危機にさらされるのだ。
しかし、ここまで大きな変更なく20余年も生き続けてきたSRは、排気ポートに排ガス浄化のための「エアインダクション」を追加して難題を克服。500ccモデルは生産中止となってしまったが、400はアイデンティティのひとつであるドラムブレーキを手放してまで、生き延びることに成功するのだ。
その後も規制強化のたびに、SRはキャブレターからインジェクションになり、マフラーにはキャタライザーを仕込んで排気ガス規制をクリア。どんなに難しい局面からも逃げずに、真っ向から延命への道を模索し続ける。
その頃のSRは、もう初期の頃のモデルで味わえたような、ビッグシングルらしい鼓動を味わえることもなく、SR人気を支えたカスタム熱も徐々に冷め始めてしまった。
けれど、唯一無二の空冷単気筒エンジン、そしてキックスタートの儀式は、SRが決して手放そうとしなかったキャラクターだった。
SRファンは、その不便さを許容する大人たちだった。
さようならヤマハSR。僕たちは、寂しくなるよ
SRの個性に転機が訪れた2000年代から20年。ついにその時がやってきた。SR400の最終モデル「ファイナルエディション」が、発売からちょうど43年目の2021年3月に発売されたのだ。
最終モデルは、ファイナルエディションとリミテッド。そのうち1000台限定のリミテッドはアッという間に完売、2021年3月15日発売のファイナルエディションも予約が殺到し、ファイナルエディション発売の発表から数週間で、約6000台もの予約が入ったのだという。
ファイナルカラーはブルーとダークグレー。歴代のSRの人気カラーをオマージュした配色。
なくなって初めて、その重大さに気付くことってある。さようならSR。ありがとう。
ヤマハ「SR400ファイナルエディション」「SR400ファイナルエディションリミテッド」主なスペック・価格
全長×全幅×全高 | 2085×750×1100mm |
ホイールベース | 1410mm |
最低地上高 | 130mm |
シート高 | 790mm |
車両重量 | 175kg |
エンジン形式 | 空冷4ストSOHC2バルブ単気筒 |
総排気量 | 399cc |
ボア×ストローク | 87.0×67.2mm |
圧縮比 | 8.5 |
最高出力 | 18kW(24PS)/6500rpm |
最大トルク | 28N・m(2.9kgf・m)/3000rpm |
燃料タンク容量 | 12L |
変速機形式 | 5速リターン |
キャスター角 | 27゜40' |
トレール量 | 111mm |
タイヤサイズ(前・後) | 90/100-18M/C 54S・110/90-18M/C 61S(前後チューブタイプ) |
ブレーキ形式(前・後) | シングルディスク・ドラム |
メーカー希望小売価格 | 60万5000円《リミテッドは74万8000円》(消費税10%込) |