文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
ヤマハ「シグナスX」インプレ・解説(太田安治)
ハイレベルな走りに加えて実用性の高さも大きな魅力
1984年の初代登場以来、ヤマハを代表する125ccスクーターとしてモデルチェンジや改良を重ね、幅広いユーザー層に支えられているロングセラーがシグナスX。2019年モデルからはヘッドライト/テールライトのLED化や液晶フルデジタルメーター、12V電源ソケットを採用。持ち前のスポーツ性はそのままに、さらに実用性を高めている。
全体の構成はごくオーソドックスで、119kgの車重と775mmのシート高も125ccスクーターとしては標準的。小柄なライダーでも取り回しやすく、シート下の収納スペース容量を確保しながら窮屈さのないライディングポジションに仕上げられていることも人気の要因だ。
乗り味はルックスに見合ったスポーティなもの。
高回転でクラッチミートするタイプのスクーターはダッシュの鋭さと引き換えに低速域でギクシャクして扱いにくいが、シグナスXの加減速フィーリングは実に自然。3000回転超で自動遠心クラッチが繋がり始めてスムーズに動き出し、全開加速では7500回転あたりをキープしてグイグイと速度を乗せていく。
渋滞路もスムーズに走れて坂道にも強い。市街地の足としては充分以上の動力性能を備えている。同様に市街地適性の高さを感じさせるのがハンドリング。ギュッと減速してクルリと向きを変えるような鋭い走り方が小気味よく決まる。
これは市街地走行の速度域を前提として、余分なピッチングモーションを抑えた前後サスペンション設定と高めの重心位置、硬すぎない車体剛性をバランスさせているから。
70km/h程度までの速度域なら前後タイヤの接地感が掴みやすいうえ、荒れた路面でも車体が弾かれにくく、安心して走れる。
改良を重ねてきただけに特記するような弱点は見当たらないが、あえて注文を付けるなら、戻し忘れを防ぐためにウインカー作動音は欲しいし、メーターパネルの角度を起こして日中の視認性も上げて欲しいところ。
ヤマハの125ccスクーターの中核を担うモデルらしく、メカニズムやデザイン的な斬新さこそないが、実際の交通の流れに合った加減速特性とハンドリング、使いやすい装備と手ごろな価格は大きな魅力。デイリーユースには申し分のない仕上がりだ。