この記事は「東本昌平RIDE92」、月刊オートバイ1998年3月号、2000年2月号、2002年5月号、2004年4月号、2007年2月号、2009年8月号、2012年2月号/ 5月号を加筆、修正、写真変更などの再編集を施しており、一部に当時の記述をそのまま生かしてある部分があります。
文:中村浩史、宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、小平 寛、永元秀和、南 孝幸、山口真利、森山俊一
ヤマハ「YZF-R1」「YZF-R1M」(2015・RN65J)インプレ・解説
勝利のための進化を遂げ徹頭徹尾スパルタン
2015年登場の8代目でR1は大きな転換期を迎えた。モデルチェンジを重ねるごとにレースを意識した高い戦闘力を与えられてきてはいるが、「R1であること」は貫き通してきた。
それは、スーパースポーツといえども所有するライダーを魅了する「エレガントなルックス」。もうひとつは、操縦する醍醐味あふれる「操って愉しいバイクであること」。このふたつがR1ブランドが守って来たスタンスだ。
8代目では純粋に速さを追求した結果、開発のメインステージをストリートからサーキットへと移行。その外観は一気にレーシーでスパルタンそのものとなった。とはいえ、これはストリートからの訣別を意味するものではない。
レーシングマシンといえど、完成度の高いオートバイは走りのあらゆる要素が高次元でバランスされているからだ。実際、開発スタッフはMotoGPマシン・YZR-M1に試乗し、その技術と乗りやすさを確認するところから開発がスタートしている。
そしてスタンダードに加え、カーボン製カウルやオーリンズの電子制御サスを採用するR1Mも設定。スタンダードとはいえ、誕生から勝利を義務付けられたモデル。R1Mは極限レベルのバトルでさらなる粘りを発揮する装備を持つ、史上最速のR1だ。
ストレスなく200PSを使える「勝つための」R1
R1試乗会の舞台はオーストラリア、イースタンクリーク・サーキット。9500回転からリミッターが作動する1万4000回転強までが最もパワフルな回転域だ。そんな高回転域を使うのに、まったくストレスを感じない。トラクションコントロールの制御が優秀で、開ければ開けただけ加速するのに、フラットで振動が少ない。
最もダイレクトな応答をするパワーモードでも、レスポンスは見事に滑らかだ。サーキットECUでは前後連動ブレーキがカットされる分、バランスの良さが特に光る。
フロントからの旋回力が容易に、上手く使えるようになった結果、初期旋回の方向転換力を強くすることもできる。これまでのどのR1よりもよく曲がる。
R1Mに乗り換えた超高速の第1コーナー。100m看板の手前あたりではメーター読みで290km/h以上。ここから制動しつつバイクを寝かし込むが、R1Mは、スタンダードより7〜8km/h速く突っ込める。
R1Mはカーボンカウルで軽量化され、前後にオーリンズのセミアクティブサスを装備する上級版。クロスプレーンクランクの「CP4」エンジンやフレームは共通だが、足回りと車両の中心から遠いカウル類の微妙な軽さの差は、確実に速さの違いで現れる。