文:太田安治/写真:南 孝幸
ヤマハ「SR400 ファイナルエディション」インプレ・解説(太田安治)
「ゆったり」を堪能するライダーのための一台
初代SRが登場した1970年代の終盤はちょうどロードスポーツの高性能化が加速し始めた時代。そこに空冷OHC2バルブ単気筒エンジンにか細いフレーム、スポークホイールで登場したSRは時代に逆行する変わり種で、当時20歳だった僕は非力なエンジンとブカブカ動くサスペンションになじめず、あまり魅力を感じなかったのを覚えている。
だが、今にして思えば、それは当時の僕の評価軸が偏っていたから。ライダーがオートバイに求めるものは多様で、雑誌が最新だ流行だと騒いでも気に留めないライダーもいるということを判っていなかったのだ。
ついにファイナルエディションとなったSRを改めて眺めると、理屈抜きで美しいと感じる。空冷エンジンの造形美、スラリと伸びたマフラー、クロームメッキやバフ掛けされたアルミパーツの輝きといった、オートバイが進化の途中で捨て去ったものを守り通しているSRは、オーナーにとって単なる乗り物ではなく「愛でる」対象なのだ。
面倒で難しそうなキック始動もSRファンには重要な「儀式」。とはいえ、FI化以降は始動性も向上し、慣れれば苦にならないレベルになった。
いったん始動してしまえば、フロント回りをブルブル震わせながら安定してアイドリングするし、2018年の再登場以降はFI制御も緻密なようで、発進時にスロットルのラフな操作をしてもエンストすることもなく、低回転トルクの太さと重めのクランクマスによって力強い加速を見せる。
エンジンはショートストロークで7000回転以上まで軽々と回るが、鼓動感が楽しいのは3000回転程度まで。2000回転台でタタタッ! という歯切れのいい排気音を聞きながらゆったり流せば単気筒の味を堪能できる。5速・100km/h時は約4500回転で、このあたりまでが振動の許容範囲。引っ張れば速度はもっと出せるが、そこにSRの世界はなく、強い振動で手足がしびれるだけだ。
操縦性も独特で、オートバイなりに寝かせていくと意図したタイミングから1テンポ遅れてゆったり曲がる。ハンドリング、ブレーキの効き、スロットルレスポンスの全てが穏やかで、車体姿勢を変えてとか、タイヤを潰すといった積極的な操作は一切不要だ。
試乗時、気づけばいつもの試乗ルートを2割ほど遅いペースで走っていた。ただ、それを不満ではなく楽しいと思える人のための「SRワールド」なのだと思う。