短命に終わった悲運の2ストローク250cc3気筒モデル
2気筒並みのスリムな90度V型3気筒を搭載
1982年6月に、2ストロークツインのヤマハRZ250の対抗馬として登場した4ストロークVツインのVT250Fは、翌7月の1ヶ月で8418台という脅威の販売成績をおさめ、初年度の約半年で30957台を売り上げるという空前の大ヒット。RZ250とともに、国内の「クォーターブーム」を盛り上げた立役者と呼べる存在だった。
しかし、ホンダは4ストロークの成功だけに満足することはなかった。本当の意味での「打倒RZ250」を果たすためには、同じ土俵での2ストロークで勝ちたいという思いが当時の開発者にはあったのだろう。
1983年2月1日、ホンダとしては初の250cc2ストロークロードスポーツのMVX250Fが発売された。MVX250Fの大きな特徴は、過去の量産車には前例がなかったエンジンレイアウトを採用した点だった。
世界ロードレースGPで初シーズンながら3度の優勝を獲得したワークスGPマシン、NS500と同じ水冷2ストローク90度V型3気筒を搭載。前2気筒、後ろ1気筒のレイアウトにより、40馬力/9000回転の高出力を発生。3気筒でありながら、2気筒並みのスリムなパワーユニットにまとめられていた。
しかし、安定した性能が維持出来ない等を理由に、1年強で後継機のNS250R/Fへと代替わりすることになる。
前側の2気筒はほぼ水平に配置されている。クランクシャフト1軸の水冷2ストローク90度V型3気筒という構成はNS500に倣ったものだが、NS500は前側1気筒、後ろ側2気筒というレイアウトだった。
ワークスレーサーのNS500との関連性を強くアピールしたV型3気筒エンジンをダウルクレードルタイプのスチールフレームに搭載。スタイリングは同世代のヒット作、VT250Fに似たデザインが与えられた。
Honda MVX250F 主なスペック
全長×全幅×全高 | 2010×735×1155mm |
ホイールベース | 1370mm |
最低地上高 | 165mm |
シート高 | 780mm |
車両重量 | 138kg |
エンジン形式 | 空冷2ストピストンリードバルブV型3気筒 |
総排気量 | 249cc |
ボア×ストローク | 47.0×48.0mm |
圧縮比 | 8.0 |
最高出力 | 40PS/9000rpm |
最大トルク | 3.2kgf・m/8500rpm |
燃料タンク容量 | 17L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 26°30′ |
トレール量 | 91mm |
タイヤサイズ(前・後) | 100/90-16・110/80-18 |
ブレーキ形式(前・後) | 油圧式ディスク・ドラム |
当時価格 | 42万8000円 |
※この記事は月刊『オートバイ』2021年6月号別冊付録「RIDE」の特集から一部抜粋し、再構成して掲載しています。当特集のスタッフ 文:安藤佳正、宮﨑健太郎/写真:赤松 孝、松川 忍、南 孝幸、森 浩輔/撮影協力:ホンダコレクションホール