文:山口銀次郎、小松信夫/写真:柴田直行
BMW「R1250 RT」インプレ・解説(山口銀次郎)
ラグジュアリーツアラーの理想的進化の姿
BMW伝統のフラットツインエンジンを搭載したラグジュアリーツアラーシリーズ「R1250RT」が、快適性と走行性能を大幅に向上させデビューを果たした。
ツアラーに求められる様々なエクイップメントや電子デバイスの進化が著しい昨今、ツアラーの王道を征くRTも最先端技術を惜しみなく搭載しアップデート完了。時代の先端をリードするモデルとして、デジタル端末やガジェットの進化と歩幅を合わせたモデルチェンジが必要になってきているのかもしれない……と思わせるほど多機能機器を盛り込んだ内容となっている。
今回のモデルチェンジの大きなニュースとして、プレミアムラインにアクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を搭載したことだろう。ここでは実際に扱ってみた感想を記したいと思う。
まず設定操作は全てハンドルのスイッチ類で行うのだが、細々したボタン類がひしめき合っている様に見えるが、アイコンを理解するととってもわかりやすい。また、ウインカースイッチと同じく操作する方向性にも意味があるため、イメージとリンクしやすく違和感のない操作が可能となっている。
大画面と言っても過言ではないTFTカラー液晶ディスプレイの表示自体も視認性が高いうえに、それぞれを表すタイトルやマークが解りやすく、操作と表示のリンク感を数回試すだけで実走行が出来るほどだった。
設定操作に不慣れなうちは心配が付きまとい気が気でないかもしれないが、一旦ACCの設定を自分のモノにすると、それはえも言えないライディング感覚に浸ることが出来るだろう。
先行車を追尾するだけではなく、任意で設定できる先行車との間隔維持が秀逸で、鋭くも敏感に先行車の速度に対応してくれた。それは、タンデムライダーとして、ライダーに全信頼を置くと共に、自分の操作が行き届かない領域であきらめにも似た「お任せ感」すら生まれるくらいなのである。
オートクルーズと連動しているので、先行車がいなくても一定の速度をキープし、先行車に近づくと自動的にロックオンし追尾状態に入る。その一連の動きにギクシャクした様子は微塵もなく、とってもスマートなのだ。しかも、カーブなどでバンキングすると、そのバンク角にも即座に反応しコーナーに見合った速度を維持してくれるので、オートバイならではのアクションでバランスを崩すこともない。
好きなように操る喜びこそオートバイの醍醐味だが、高速道路などでの巡行を余儀なくされるシチュエーションでは、とってもありがたい機能であることは確かだろう。リッチなパワーフィールと快適な居住性を満喫するパッケージでは、使用したい、いやむしろ使用するべき機能となっている。
絶対的にハンドルを手にしているのは自分だし、右に左に車体を翻すのも自分なので、全く手放し&ノータッチではないところが、最先端のラグジュアリーマシンが行き着いた、もしくは目指した快適なライディングなのかもしれない。
新に追加された電子デバイスだけではなく、アナログ的な要素として大きなフロントカウリングを刷新しより快適空間を構築する。真向当たる走行風をシャットアウトするだけではなく、多少走行風を進入させコントロールし、ライダーの背面で起こる乱流を防ぐことで、風切り音や(巻き込み音?)風の抵抗が明らかに低減されている。
大袈裟かもしれないが、高速道路走行でもタンデムライダーとの会話が出来るほど、静粛空間が保たれているのだ。もちろん、タンデムライダーの負担も軽減されること間違いないだろう。
こちらもアナログ進化と表現すべきか? 電子制御されているとはいえ、可変バルブタイミング機構を搭載するエンジンは、大らか且つ戦闘的な二面性をもつワイルドな設定に。戦闘的とはいえ、ピーキーで扱い辛いといったものではなく、強力なトルクがエンジン回転数の上昇に合わせ倍載せされてくるような、強烈な頼もしさを備えている。
一定の速度でクルージングする高速道路巡行とは異なる高低差のあるワインディングにて、タンデムライダーを乗車させ流してみると、如実にRTのタフネスさに気づくことになった。
巨体+タンデムライダーでワインディング走行となると、かなりハードルが高いように感じるが、いざ走り出すと自然と湧き上がるチカラであらゆる重量感から解放してくれる。加減速が繰り返されるシチュエーションにも関わらず、とても滑らかに欲するチカラが得られ、スムーズで快適なライディングを演出してくれる。
大柄な車体が嘘の様な高い旋回性をみせるハンドリングは、とても素直であり程よい落ち着き感を併せ持つので、コーナーへの積極的なアプローチが無くても、必要最低限のイメージでコーナリング展開ができてしまう印象だ。
巨体とタンデムライダーの存在を忘れさせてくれるほど、包容力のあるチカラの演出は、ラグジュアリーマシンにはなくてはならない性能であり、その能力をより磨きを掛け昇華させたといえる。
圧倒的なデジタル領域とアナログ領域の進化と融合を見せるR1250RT、さらに人間が接することで完成するシナリオを楽しみ尽くすためには、もっともっと遠くへのトリップが必要かもしれない。