史上初めて?真夏のスプリントレース!
この週末、鈴鹿サーキットでは全日本ロードレース第5戦「MFJグランプリ」が開催されました。
本来ならば、この週末は2021 第43回 鈴鹿8時間耐久ロードレースが開催される予定だったんですが、コロナ禍の影響もあって、11月5~7日にスライド開催となることが発表され、スライド先に開催予定だった全日本ロードレース最終戦をこちらに持ってきた、と。そんなわけでの「最終戦じゃないけどMFJグランプリ」大会なのです。
JSB1000クラスは、5/22-23の菅生大会以来。ずいぶん昔のことに感じられちゃいますが、実はこのMFJグランプリに、ひとつ記録がかかっていたんです。かく言うワタシもすっかり意識の外だったんですが、この2連戦に中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシングチーム)が連勝すると、ここまでのランキング2位、清成龍一(Astemo Honda Dream SIレーシング)の結果によっては、チャンピオンが決まってしまう--というものでした。
え? まだ7月ですけど? ってのがファンや関係者の偽らざる心境。でも2021年シーズンの6戦11レースのうち、ここまで3戦6レースを消化して、中須賀は5勝をマーク。勝ちを逃した菅生大会のレース1も、決勝レースが悪天候のために中止となって、予選順位に対してハーフポイントが与えられていますから、ハーフウェットの予選で2番手だった中須賀は、ハーフポイントで10Pを獲得。5勝×25ポイント+10ポイントで、3戦6レースで135ポイントを獲得していたのです。
これを追うランキング2位のライダーが清成。清成は6戦のうち2位3回、3位1回で合計81.5ポイント。中須賀とは135-81.5=53.5ポイント差ですから、鈴鹿大会を終えて3レース残りの時点で、25×3=75以上のポイント差がつくと、チャンピオン確定なわけです。
ってことは、この鈴鹿の2レースで75-53.5=21.5ポイント差がついたらチャンピオン決定。となると、中須賀がダブルウィンだと仮定すると、MFJグランプリのボーナスポイント「3」を加えて、最大獲得ポイントは(25+3)×2=56。21.5ポイント差というと56-21.5=34.5なので、清成は2レースで34.5ポイントを獲得しなければならず、34.5ポイントといえば4位2回では(13+3)×2=32となって、中須賀のチャンピオンを許してしまうことになります。はい、ここ試験に出るぞー!
でもまぁ、清成のここまでの成績といえば、開幕戦レース2をマシントラブルでノーポイント、雨の予選でポイントが与えられた菅生大会のレース1以外、2位が3回/3位が1回ですから、チャンピオン決定は翌戦以降に持ち越しだろう――そんな予想だったんです。
しかし、レース1が行なわれた土曜日、清成の走りがピリッとしません。公式予選ではなんと3列目9番手。セカンドベストタイムで決められるレース2のグリッドも3列目7番手です。
今回は木曜からフリー走行が行なわれていたんですが、清成のタイムは木曜1回目が3番手/2回目が4番手、金曜1回目は10番手/2回目が5番手ともうひとつ。もちろん、フリー走行、事前練習ですから、順位は関係ないんですが、対する中須賀は4回ともにトップタイム、予選は2レースともポールポジションですからね。勢いの差がちょっと、大きかったように思います。
チャンピオン決定持ち越し--と思いきや……
そして、土曜に行なわれた決勝レース1。スタートの名手、加賀山就臣(Team KAGAYAMA)のホールショットで始まったレースで、中須賀は3番手あたりでレースをスタート。清成もスタートの名手とはいえ、6~7番手までポジションアップするのが精いっぱい。2周目には亀井雄大(Honda Suzuka Racing Team)に続いて2番手に浮上した中須賀に対し、清成は6台くらいのトップグループに届かずに周回を消化していきます。
レースは亀井の転倒でセーフティカーが介入し、セーフティカーが解除してからは中須賀の勝ちパターン。中須賀は2位以下に5秒半の差をつけて完勝! 2位以下に名越哲平(MuSASHi RT HARC-PRO.Honda)、日浦大治朗(Honda Dream RT 桜井ホンダ)、岩田悟(Team ATJ)、濱原颯道(Honda Dream RT 桜井ホンダ)とホンダCBR1000RR-R勢が並ぶ中に清成の名前はなく、清成はなんと11位でフィニッシュしてしまいます!
さぁ、これでポイントテーブルが一気に慌ただしくなりました。
中須賀は135ポイントに優勝+ボーナスポイントの28を加えて163ポイント、対する清成は81.5ポイントに11位+ボーナスポイント=8を加えて89.5ポイント。その差が73.5ポイントとなり、中須賀のチャンピオン条件の「75」を下回ってしまいました。
となれば、清成は鈴鹿のレース2で中須賀に先行、それも2ポイント以上の差がつく順位差を付けなければならなくなりました。例えば清成優勝、2位中須賀ならば25-20=5ポイント差がつきますが、清成5位、6位中須賀では11-10=1ポイント差しかつかないわけです。
清成と中須賀が5位6位なんて、ほとんど現実味のない仮定の話ですが、レースは何があるかわかりません。雨が降るとか、タイヤ選択をミスるとか……ね。
そして日曜のレース2。朝のフリー走行では、中須賀がトップタイム、清成が4番手とまずまず。土曜の夜には清成のピットは遅くまで作業するメカニックの姿が見られ、大幅なセッティング変更をしているようでした。
日曜お昼のST600決勝レースが開始される直前には、なんと鈴鹿に雨が! これは清成にドラマチックな恵みの雨になるか――と思ったんですが、雨は何事もなかったかのようにすぐに止み、路面もあっという間にドライコンディションに戻ってしまいました(笑)。
レース2、またも加賀山がホールショットを決めると、3列目7番手スタートの清成も4番手あたりにつけ、2周目にはトップに浮上! それでも、中須賀もその後方にピタリとつけ、ポジション争いを開始します。レースは中盤に差し掛かって、清成→中須賀→名越→濱原といったオーダーから折り返し地点を迎えるころに、満を持して中須賀がトップに浮上! ここからはもう、いつもの中須賀の勝ちパターンでした。
結局、中須賀はレース1と同じように2位以下を引き離してトップチェッカー。清成は、濱原、日浦、名越という若いチャレンジャーを抑え込んで2位フィニッシュ。
「今回は新しいセッティングに大きく変えてみて、レース1はそれを乗りこなすことができなかった僕の責任なんです。それで、スタッフのみんなにわがままを言って土曜の夜にまた大変更してもらって、レース2ではレース1よりいい走りができた、って感じですね」(清成)
それでも、これで中須賀は163ポイントにボーナス付き優勝ポイント28を加えて191ポイント、清成は89.5にボーナス付き2位ポイント23を加えて112.5ポイント。その差78.5ポイントとなり、残り3レースで「清成全勝、中須賀全戦ノーポイント」となっても75ポイントしか縮まらず、中須賀の10回目のシリーズチャンピオンが決定したわけです。
このレース中須賀は、ヤマハがGPレースに参戦して60周年の節目となる記念の白×赤ストロボカラーで走っていましたが、そのスペシャルマシンでWウィン、しかも60周年の節目に中須賀の優勝が60回目という座りのよさ! 昨シーズンは、後輩の野左根航汰に奪われた「日本最速の男」の看板を見事に取り返しました!
中須賀克行 予選:ポールポジション レース1/2:優勝
「10回目のチャンピオンって実感はありませんけど、連続で10回タイトルを獲るためには10年かかるんだなって思ったら、そうか…もう10年もトップ走ってるんだ、全日本を引っ張ってこられたんだって嬉しく思います。まだまだやれるぞ、ってファンのみなさんに見せられるように、これからも変わらず頑張ります。チームのみんなと一緒に1レースごとにいいバイクを作って、毎レース優勝することを目標に走ってるんで、その延長線上にチャンピオンがあって、それをずっと続けてこれたんだな、って気持ちです。勝ってチャンピオンを決められてよかったです! 60周年で60勝ってのは、昨日聞いたんですが、なかなか寝付けなかったんだよ、余計なプレッシャーになっちゃいました(笑)」
60勝して、10回チャンピオンを獲って、それでも走り続けることはエネルギーがいることです。それを継続している中須賀が、やっぱりスゴいってこと。ちょっと早くチャンピオン決めちゃったけど、おめでとう!日本一!
写真/木立 治 後藤 純 中村浩史 文責/中村浩史