文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
ヤマハ「MT-09 ABS / SP」インプレ・解説(宮崎敬一郎)
本来の魅力の身軽さをイージーに堪能できる
新型のMT-09は、歴代の中で最もパワフルでありながら、最も扱いやすいバイクに仕上がっている。初期型の暴れん坊キャラから、歴代モデルは進化とともに徐々にマイルドになってきたのだが、ここへきて、ようやく一般ライダーがラフに扱っても制御できるドライバビリティを手に入れた印象だ。
もちろん、MT-09の走りを支える圧倒的な軽さとパワーは走りの魅力の核だ。新型はピークで8馬力アップし、低中回転域のトルクにコシが出た。排気量が大きくなった分の余裕もあるだろうが、完全なエンジン特性の変更だ。これが扱いやすさを生んだ。
リフトコントロールのおかげもあって、Dモード(パワーモード)を「1」にセレクトしてフル加速しても、勝手にパワーリフトすることは希になった。ただ、トルクの抽出量もスロットル操作でリニアにコントロールできるので、こうした電制アシストに頼らずともリフトさせずに強力に加速できる。
このエンジンに加え、足回りとフレームがいい仕事をしている。スタンダードのショックは特にというわけでではないのだが、ひと言でいうと落ち着きがいい。
サーキットでの試乗でも体験したが、それまでなら相当慎重に操作しないと前後輪ともに踏み抜けていた場所、細かいギャップが連続する箇所をかなり開けて走ることができたのだ。減衰力とバネのバランスが見直されている。これが今回のモデルチェンジでいちばん歓迎したい改良箇所だ。
この足回りをさらにグレードアップした仕様が「SP」。フロントのKYB製フォークも、リアのオーリンズもフルアジャスト可能だ。バネも減衰も強いものがバランスされており、初期設定でもその強さがスタンダードよりピッチングの少なさを実感させる。
だが、初期作動のスムーズなハイグレードショックだ。乗り心地はスタンダードよりずっといい上に、荒れた路面のフルバンクでより大きなパワーをかけたまま立ち上がれたりもできる。スタンダードに対し、全ての感触が上質になっているのだ。SPは、扱いやすくて元気のいいストリートスポーツに仕上がっている。
新型MT-09は、今までの「素人が使いこなすのは大変」という「毒」が完全に抜けた。でもその強烈な瞬発力や、身軽なフットワークなど、中身は生粋のファイターのまま。「爪を隠した」扱いやすいスタンダードスポーツだ。