文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
BMW「G 310 R」インプレ・解説(太田安治)
走り出せばすぐ分かる洗練されたパワー感!
現在のBMWは伝統の水平対向2気筒エンジンと、並列4気筒/2気筒エンジン搭載車が主力になっている。もともと中〜大型車専門メーカーのイメージがあるが、2017年に加わったのが単気筒エンジンのG310R。
エントリーユーザーや女性ライダーが手軽に乗れるBMW、という存在意義に加え、アジア地域にBMWブランドを浸透させる役割も担ったインド生産のグローバルモデルだ。
2021年型のG310Rは初のビッグマイナーチェンジを敢行。スチール製チューブラーフレームにシリンダーを後傾させて前方吸気・後方排気レイアウトとした単気筒エンジンを搭載する基本構成に変更はないが、ユーロ5規制に対応すると同時に電子制御スロットルやスリッパークラッチ、フルLEDの灯火類といった最新装備を採用した。
前モデルとの違いは発進した瞬間に感じる。自動的にアイドリング回転数が上がるブースト機構と軽いクラッチ、低回転域トルクの太い出力特性でゼロ発進が実にスムーズ。低速走行時はスロットルリターンスプリングの強さがやや気になるものの、回転数を気にせず無造作なシフトアップで加速しても単気筒エンジンにありがちなギクシャク感は出ない。
最大トルク発生回転数は7250回転。実際には4000回転台から充分に力強く、発進加速を繰り返す市街地での扱いやすさと、1万回転まで回し込んだ際の分厚い加速感は250ccエンジン車にはない優位性。高速道路の120km/h巡航にも余裕があり、上り勾配や向かい風でもシフトダウンの必要はない。
6000回転を超えるとそれなりに振動が出るが、手足が痺れるほどではないのでロングツーリングでも許容範囲内だと思う。
秀逸なのは安定性の高いハンドリング。シリンダーを後傾させてエンジンを前寄りに配置したことでスイングアームを長くすることができ、ギャップ通過時の突き上げ感と車体姿勢の変化量が抑えられているし、車格の割に重めの164kgという車重もあって中型車的な乗り味。
コーナリング特性も車格から想像するよりも落ち着いたもので、ヒラヒラ向きを変えるのではなく、前後タイヤの接地感を変化させずに狙ったラインをトレースする感覚だから長時間走行での疲労も少ない。
ライバルは390DUKEあたりだが、市街地走行とショートツーリングならG310Rの扱いやすさが勝る。派手さを抑えた仕上がりもBMWらしい魅力だ。