文:太田安治、オートバイ編集部/写真:柴田直行、南孝幸
ヤマハ「MT-07 ABS」インプレ・解説(太田安治)
スポーツ性と快適性の好バランスはそのまま
50代以上のライダーから「大型車は体力的に厳しくなったので乗り換えようかと……」という相談を受けることが多い。使い方や好みを聞いて何台かの候補を挙げるのだが、誰にでも必ず推しているのがMT-07だ。
400cc車と同等の軽量コンパクトな車体は軽々と取り回せ、73馬力のエンジンで大パワー車に乗っていたベテランにも物足りなさを感じさせない動力性能。オートバイの評価基準としては無粋だと思いつつ「コスパ」の高さも現実的な魅力として付け加えている。
新型は外装デザインが大きく変わったものの、車体とエンジンの基本構成はそのまま。これには正直言って安心した。MT-07のスポーツ性、快適性、実用性の好バランスを変えて欲しくなかったからだ。
ハンドルは幅が32mm広がって12mm高くなっている。前モデルでは車格の割に狭く感じたが、新型は市街地やツーリングでのリラックス度が上がり、車体が暴れたときも抑えやすい。フロントブレーキはローター径を282mmから298mmに大径化。コントロール性向上を狙った変更とのことだが、ハードブレーキングを多用しない限り違いを感じることはないだろう。
それよりもミシュラン・ロード5が標準装着タイヤになったことが嬉しい。このタイヤは乗り心地、ウエットグリップ、ライフともに優れていて、普段使いに最適な性能を持っているからだ。
街乗りで感じるのは270度クランク並列2気筒エンジンの力強さ。ゼロ発進がイージーで、中間加速の鋭さも688ccとは思えないほど。しかも1万回転まで軽々と回るのでサーキットでもストレスを感じなかった。
車体の剛性バランスは常用速度域に合わせ込んである。タイトターンでも前後タイヤのグリップ状態を感じさせながら素直に向きが変わり、切り返しも軽い。
サーキットでのフルバンクのような高荷重が掛かっている状態のままギャップを通過するとサスペンションのバタつきと車体全体のネジレが出るが、これを抑えるために車体剛性とサスペンションを硬めにすると常用速度域での乗りやすさを損う。現実的な公道走行ペースに合わせた設定こそ、MT-07の大きな魅力だと思う。
冒頭に中高年ライダーに勧めていると書いたが、これは大型ビギナーにも当てはまる。操作に対する反応が判りやすいMT-07は安全にライディングスキルを高めるためにも最適な一台に仕上がっている。