文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、柴田直行、南 孝幸、森 浩輔
【比較車両 一覧】ヤマハ「MT-07」・ホンダ「CB650R」・カワサキ「Z650」・スズキ「SV650」
いまミドルネイキッドは欧州の人気カテゴリーに(太田安治)
太田安治
月刊『オートバイ』でインプレッションライダーと用品テスターを40年近く続けている超ベテランのフリーランスレポーター。元国際A級ロードレースライダーであり、全日本選手権ではチーム監督も務めた。最近はもっぱらツーリング派で、林道ツーリングにも興味津々。愛車はカワサキのNinja1000。
優しさとゆとりの絶妙なバランスで人気となるか
某メーカーの市場調査資料によると、ヨーロッパ市場のミドルクラスは長らくスーパースポーツタイプが人気の中心だったが、この10年ほどは凋落傾向にあるそう。代わってストリートモデルの販売シェアが伸び、5年ほど前にはついに主役交代が起きている。
運動性能優先のスーパースポーツは街乗りやツーリングに向かず、最先端装備のせいで車両価格も高い。日本以上にコストパフォーマンスを重視するヨーロッパのライダーにとって、ネイキッドスタイルのストリートモデルの方が魅力的に映るのだろう。
こうした動きは、かつて日本のレーサーレプリカブームに対する反動からクルーザーやネイキッドが大人気となった状況とよく似ている。
ここに登場する4台のネイキッドも、企画・開発段階でそうしたヨーロッパの動向を意識しているはずだ。常用速度域は日本より2〜3割は速く、一日の走行距離も長い。それだけに、日本の交通環境下では250ccモデルや400cc車とは明らかに異なる「余裕」がある。
今回の試乗テストは市街地、高速道路、荒れた路面もある峠道など、現実に即したシチュエーションで行ったが、どの車種もエンジンパワーに対する不満など一切感じず、一日中走り回っても思いのほか疲労が少ない。これこそ余裕の証だと実感させられた。
過去の経験から言うと、ヨーロッパでの流行は3〜4年遅れて日本に波及してくることが多い。とすれば今年あたりからミドルクラス、とりわけネイキッドの人気が盛り上がる可能性が大。
重量車からのダウンサイジング需要には先に記した余裕が重要で、大型免許ビギナーには怖さを感じさせない乗りやすさが大事だから、両者を合わせ持つミドルネイキッドが新たなムーブメントとなるのは必須。その先鋒となるのがこの4台だ。
【比較】走行性能・乗り心地
ヤマハ「M-07 ABS」
素直なハンドリングが光る!
普段使いでの扱いやすさとライダーが優位でいられる運動性能を実直に追求しているのがMT。270度クランク採用のエンジンは低回転では粘り強く、中回転域では力強く、そして高回転では弾けるように回る。
前後サスペンションを含めた車体剛性は今回の4車の中では低めの設定で、低中速コーナーでの曲がりやすさは文句なし。エンジン特性と操縦性により、荒れた路面や雨中走行といった悪条件下での走りやすさは特筆ものだ。
ホンダ「CB650R」
パワーと伸びはさすが4気筒!
世界的に見るとミドルNKのエンジンは2気筒または3気筒が主流だから4気筒エンジンを積むCBは貴重な存在。市街地で常用する3000〜6000回転でのスムーズな反応と、高回転で絞り出すようなパワー感、官能的なサウンドは4気筒エンジンだけの味だ。
しっとり落ち着いたハンドリングで大型ビギナーでも扱いやすく、高い旋回性と接地感によってベテランライダーの本気走りにも応える懐の深さがCBの魅力といえる。
カワサキ「Z650」
ライダーに優しいミドルZ
ミドルクラスの2気筒モデルは270度クランクの並列2気筒または挟角90度のV型2気筒エンジンが主流になっている。これは低中回転域での力強さ、パルス感を優先してのことだが、Zの並列2気筒エンジンは180度クランクを採用し、6000回転近辺から一気に伸びていく爽快な特性。
ハンドリングは穏やかで全体に大型車的な乗車感だが、その安定性の高さを活かし、積極的な操作でねじ伏せるように曲げる面白さも秘めている。
スズキ「SV650 ABS」
実用性も機動力も兼備
これといった新しさや電子制御などはないSVだが、走らせると不思議な充実感がある。4車の中では最もスポーティなハンドリングで、Vツインエンジンの鼓動感も豊か。ツイスティロードを駆け回る楽しさはトップクラスだ。
車体の素性がいいので、サスペンションをグレードアップすれば本気のサーキットライディングも楽しめるはず。車重が重いことと足着き性に配慮したシート形状が乗り心地をスポイルしていることが残念だ。