文:山口銀次郎/写真:西野鉄兵
ヤマハ「シグナスX」通勤インプレ(山口銀次郎)
1982年登場の180ccの祖とし、その後のモデルチェンジに於いて125cc、いわゆる原二クラスに定着したシグナスシリーズ。常に先進的でチャレンジングなデザインで目を引き、街道で頭ひとつ出た存在感と安定のパフォーマンスを発揮している。そんなオシャレ番長とも言えるシグナスXに、1カ月ほど通勤の相棒としてお付き合いいただいた。
シグナスXといえば、そのスタイリッシュなスタイリングと、各部隙のない意匠に凝った造り込みに、モデルチェンジの度に注目を集めるモデルであった。もちろん、街道で出食わしても、いちいち目を惹かれてしまう、街道通勤界隈では頂点に君臨するといっても過言ではない、スタイリッシュ王と言えるだろう。もちろん、これは私の偏った意見であるが。
デザインとともに先進的な技術も早々に取り入れ、乗り手の満足度を高めているのも特徴のひとつだろう。価格を抑えたモデルや、125cc以上のモデルから派生した兄弟モデルなどとは異なる、派生モデルなしのターゲットを絞った真の125スクーターとして、また125スクーターの中でもスペシャルな存在といえるポジションで贅を尽くしたリッチなモデルともいえる。
ひと昔ふた昔前までは国産の125スクーターでも、100kgを切る車重のモデルもあり、「通勤では軽さが最強の武器である!」と信じて止まなかった。もちろん、その軽さがどういったネガを生むか、一人乗りではあるが1日で1000km(原二なので下道で東京新橋~福岡小倉)ほど走行してみたが、走行するステージが下道一般道であるならば、快適性を損なうことなくネガな部分を見出せず、そんな想いは尚のこと強固になっていた。
シグナスXの車両重量はというと120kgに迫るものだが、それは「重い」という感想には直結するものではなく、確かな骨格や足回りの充実ぶりからくる「ゴツい」といったものだった。小径タイヤを装備するスクーターにとっては、ホイールベースの1cm~2cmの差は大きく手応えとなって現れてくるが、シグナスXは程良い転回性能をみせ、軽快であり重量感を感じることなく、二人乗りも考慮された造りのスペックはとてもバランス良いものだった。
シグナスXの車重(クラスの中でも特に重いワケではない!)を感じさせなくするのは、ずばりパワーと制動能力の高さにあるだろう。走り出しから感じることのできるスポーツモデルよろしい乗車時の沈み込み以降のストロークが少ないショックに、低回転域からグイグイ湧き上がるパワーが合わさり、のんびりゆったりとした和み系とは異なる鋭い性格にゾクゾクしてしまった。この屈強さを手懐けるのは少々ハードかもしれない、と思う間もなく、強力かつ抜群のコントロール性を生む制動力により、すべて丸っと合点が合う高次元のバランスをサラッと体感できた。
タイヤサイズなどで125スクーターに対する限界点のイメージを持っていたつもりだったが、その幅を大きく引伸ばしてくれるであろうパフォーマンスに少々戸惑ってしまった。もちろん、良い意味で。制動力、特にディスクブレーキ化されたリアブレーキのコントロール性は、きめ細やかな操作に確実に応え瞬時のトライ&リリースを高次元で達成してくれるのだ。状況の変化が激しい通勤路では、その場しのぎ的な野生の勘ともいえる対応能力が必要となってくるものだが、そんなサバイバルロードで強力かつ特大の武器を得た気分である。
制動能力が高いということで、必要となってくるのが踏ん張れる足回りであり、しっかりした骨格だろう。そう、乗り出して最初に感じた骨格や足回りの硬質感は、ハイレンジに対応するもので必然的にビルドアップした能力なのだと納得。とはいえ、のんびりゆったり走行したからといって、気難しさや苦痛を伴うことは一切ない。むしろ、アップデート分の伸びしろともいえる秘めた余力がプラスされている、お得感ド高めのパッケージとなっている。
一般公道での常用域では、スロットルオフから、またはパーシャル(若干スロットルが開いているが一定の状態)から加速させる際のダッシュ力は、クラストップレベルの鋭さを持っている。
通勤では不使用な領域かもしれないが、クローズドコースにて出来る限り最高速を引っ張ってみると、90km/hまでの加速は淀みなくパワフル。スロットル全開のままでは、デジタルタコメーターでは8000回転まで一気に回り、一旦の回転は落ち着きVベルト式無段変速ならでは加速をみせる。そして、100km/hを越えVベルト最高速モードと思しきポイントから、今度はエンジン自体の回転数が上がっていき速度を乗せに乗せていくのだ。そんな8000回転からの「奥の手」感は充実した装備として記載しないテはないだろう。
最後に気になる燃費だが、総走行距離500kmで約16.6L給油で約30km/Lといった具合。ほとんど一人乗り状態の片道30kmの距離での通勤に使用した。