談:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍
伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2021年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦!
ホンダ「PCX/PCX160」インプレ(伊藤真一)
チェーン駆動!? と錯覚してしまうくらい、ロスが少ない新型PCXの駆動系の仕上がりの良さ!
PCXをこの連載で取り上げるのは久しぶりですが、実はウチのチーム(Astemo Honda Dream SI Racing)でもPCXをパドックバイクに使っているんです。ただPCXといっても、電動のPCXエレクトリックですけど。
使い出したのは、7月の全日本ロードレース選手権第5戦鈴鹿からです。電気モーターというと、発進からトルクがドンと出るイメージがありますが、むしろ少し足りないな…という穏やかな印象です。扱いやすさと、航続距離との兼ね合いで特性を設定しているのだと思います。驚いたのは、意外とバッテリーが減らないことですね。
残量が80%くらいになると100Vで充電するようにしてますが、割と早く100%まで復活します。ガソリンを使わないから環境にも優しいし、お金もガソリン代ほどかからないのも良いですが、ガソリンを入れるという手間が省けることの楽ちんさが、実は結構魅力的だったりします。
PCX e: HEV
税込価格:44万8800円
発売日:2021年1月28日
ハイブリッドモデルも、モデルチェンジを受けて登場!
国内市場では唯一販売されている、電気モーターを使用するハイブリッドスクーター。最高出力1.9PS/3000rpm、最大トルク0.44kg-m/3000rpmの電気モーターのアシストにより、125ccモデル比で約33%のトルク向上を実現。なおモーターアシスト力やアイドリングストップのオン/オフを、4つの走行モードで選択することもできる。
4機種あるPCX系ですが、今回主にテストしたのは原付二種のPCXと、PCX160です。そして参考のために、ハイブリッドのe:HEVにも短時間ですが試乗してみました。
e:HEVの旧型は電気モーターのアシストの効きが明確にわかる印象でしたが、新型はそれがわからなくなりましたね。旧型はモーターがちょっとトルクを上乗せしてくる…という感じでしたが、新型は全体的に馬力が上がったようなフィーリングになっています。もちろんスタンダードのPCXよりもパワー感は全然あって、トルク感は160に近いくらいあります。
試乗して一番バランスが良いな、と思ったのはPCXですね。アイドリングストップからの再始動は、元々旧型のころから自然で良かったですけど、走り出してからの駆動系のロスのなさには、スゴイな! と驚きました。旧型はシングルコグのベルトを採用していましたが、新型は屈曲時に発生する抵抗を低減するダブルコグベルトを採用しています。
駆動力のロスの少なさは、ベルトではなくてチェーンで繋がっているみたいなフィーリングですね。新型のエンジンは4バルブになって、ショートストローク化されているなど旧型から大きく変わっていますが、フリクション感が減少していて非常に好印象でした。排気量が125ccですから、登りでの追い越し加速などではちょっとトルクが足りないと感じてしまったりしますけど、中速、高速域では気持ち良く回転が上がり、スピードも伸びていきます。
PCXの試乗は街中でしたが、160は街中だけでなく、高速道路を使って長距離走行も試し、ワインディングも走り込みました。150だった旧型から排気量は160に上がりましたが、馬力的には十分ですね。高速道路を巡航していても、ひと昔前の200ccあたりの単気筒バイクよりも全然速い印象です。
新型はフレームも変わっていますが、ライディングシューズを履いて乗ると、センタートンネルのところをちょうど足でホールドできるんですよ。旧型よりも、センタートンネル部のボリュームが増して大きくなっていますが、しっかりと足で車体を押さえられるので走っているときの安定感が増したと思います。ただ長い期間、くるぶしで強くホールドし続けていると、センタートンネルのところが傷ついてしまうかもしれませんが(苦笑)。