文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2021年11月28日に公開されたものを転載しています。
Gogoroの"ゴーシェア"に対抗しアイオネックス"独自"のサービスも8月から開始!!
2000年から台湾市場でトップセールス20連覇記録を打ち立てたキムコは、近年は2015年からサービスを開始した新興メーカーのGogoro社と、熾烈な電動スクーター分野での競争を繰り広げています。
交換式バッテリーのステーションを各地に設置することで、充電の煩わしさを解消したGogoroの利便性はあっという間に台湾の人々の間で知れ渡り、現在では台湾全土で2,100以上のステーションが稼働するほどGogoroのサービスは発展しています。
そして電動スクーターの分野で遅れをとっていたキムコは、Gogoro陣営に対抗して2021年5月にバッテリー交換プラットフォームである「アイオネックスEVリーグ」を発表。10月時点でアイオネックスの交換バッテリーステーションは、台湾6大都市(台北、新台北、桃園、台中、台南、高雄)を中心に約500箇所が稼働しており、年内にはその数を1,000まで拡大することを目指しています。
出遅れを取り戻すため、アイオネックスのバッテリーステーション新設の速度は5月の4箇所/日から、7箇所/日に加速! アイオネックスのバッテリーステーションには、小規模なスワップポイント(全体の87%)と大規模なメガステーション(同13%)に分類されますが、アイオネックスは中華電信、富邦損害保険、セブンイレブン、カルフールなどの大手企業と契約し、前者のスワップポイントの拡充に励んでいます。
なおアイオネックスの交換式バッテリーと、バッテリーステーションの形態は先駆者Gogoroのそれと似ていますが、アイオネックスはサービスの内容ではGogoroとの差別化を図っています。2019年10月にGogoroは、「ゴーシェア」という電動スクーターシェアリングサービスを台湾市場で開始し、サービス開始から3ヶ月という短期間のうちに、30万人以上の登録者を獲得することに成功しました。
一方アイオネックスは、その対抗策として2021年8月に「アイオネックス・リチャージ」という、オンデマンド方式のバッテリー交換サービスを開始。その内容は、スクーター所有者がバッテリーステーションに立ち寄る時間を費やすことなく、立ち合い不要でバッテリー交換を完了させる・・・というものです。
アイオネックス・リチャージは、バッテリーステーション網が拡充途上である現状をフォローするサービスとも言えるでしょう。そしてキムコとしては、Gogoroのゴーシェアのような電動スクーターシェアリングよりも、自社ユーザーへの特典を強化することで、自社製電動スクーター販売を促進するほうが、メーカーとしてのビジネスのあり方として魅力的だと考えているのかもしれません。
このあたりはあくまで推察ですが、実情が上述の記述どおりだとしたら、長年車両メーカーとして栄光の歴史を築いてきたキムコと、ここ数年のうちにバッテリー・サブスプリクション・ビジネスを電動スクーターの世界に定着させたGogoroの、企業風土の違いがうかがえるようで面白いです。
バリエーション拡充を目論んでいることが、うかがえるラインアップ
キムコはアイオネックス規格の新型スクーター複数種を、EICMA2021で公表しています。台湾スクーターのトップメーカーのキムコとしては、電動スクーターラインアップの多バリエーション化を一気に促進し、ユーザーの選択肢を増やすことで獲得可能なユーザー層を拡大したい・・・という考えなのでしょう。
L1e区分のアジリティ・キャリーEVは、キムコの人気スクーターシリーズであるICE(内燃機関)版アジリティの仕様を踏襲しつつ、ハブモーターを採用。搭載されるアイオネックス規格バッテリーは1つです。
Agility Carry EV 主要諸元
[モーター] 型式 ハブモーター 出力2.0kW 航続距離 50km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 50.8V/34.3Ah/1,742Wh バッテリー重量 10.5kg
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,930 x 690 x 1,145mm シート高 780mm ホイールベース 1,320mm 乾燥重量 84kg タイヤサイズ 前110/70-12 後110/80-12
i-Oneとi-One XはともにL1e区分で、バッテリー1つを搭載するシティーコミューターですが、i-OneXは2kW後輪に2kWハブモーターを搭載し、60kmの航続距離を保証。そしてi-Oneは3.6kWのモーターを車体中央にマウントし、その航続距離は52kmになっています。
i-One 主要諸元
[モーター] 型式 セントラルモーター 出力3.6kW 航続距離 52km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 50.8V/34.3Ah/1,742Wh バッテリー重量 10.5kg
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,808 x 700 x 1,110mm シート高 760mm ホイールベース 1,270mm 乾燥重量 85kg タイヤサイズ 前90/90-12 後110/70-12
i-One X 主要諸元
[モーター] 型式 ハブモーター 出力2.0kW 航続距離 60km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 50.8V/34.3Ah/1,742Wh バッテリー重量 10.5kg
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,813 x 875 x 1,115mm シート高 765mm ホイールベース 1,290mm 乾燥重量 76kg タイヤサイズ 前90/90-12 後110/70-12
L3e区分のスーパー6とスーパー7は、バッテリーの2つ搭載する上位モデルです。スーパー6は6.4kWセントラルモーター、スーパー7は7.2kWのセントラルモーターを採用。ともに100kmを超える距離を移動できるポテンシャルを有しています。
・・・ちょっと気になるのは、キムコのリリースではスーパー6とスーパー7のモーター配置は上述のとおりになっているのですが、スペックシートではどちらもセントラルモーター方式になっています(苦笑)。車両写真を見比べる限りでは、どちらも同じモーター方式だと思いますけどね・・・。
Super 6 主要諸元
[モーター] 型式 セントラルモーター 出力6.4kW 航続距離 104.9km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 50.8V/34.3Ah/1,742Wh x2 バッテリー重量 10.5kg x2
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,770 x 690 x 1,090mm シート高 750mm ホイールベース 1,275mm 乾燥重量 93.5kg タイヤサイズ 前後12インチ
Super 7 主要諸元
[モーター] 型式 セントラルモーター 出力7.2kW 航続距離 103.1km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 50.8V/34.3Ah/1,742Wh x2 バッテリー重量 10.5kg x2
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,810 x 690 x 1,115mm シート高 775mm ホイールベース 1,280mm 乾燥重量 94.5kg タイヤサイズ 前後12インチ
アイオネックス規格採用車モデル以外の、高性能電動スクーターも作ってます!
現在世界の2輪EV開発のトレンドは、大容量バッテリーが必須の高性能モデルは車体固定型バッテリー、そして電動スクーターなどの短距離コミューターモデルなどには、着脱式の規格化された交換型バッテリーを搭載する・・・というカンジになっています。
ICEモデルのラインアップでは、マキシスクーターやATVなども製造しているキムコですが、これらの高出力が求められるカテゴリーを電動化するにあたっては、アイオネックス規格バッテリーではなく、専用の大容量バッテリーを採用した方がいい、と現時点では考えているようです。
そのことがうかがえるのが、EICMA2021では「スーパー9」の名で、そして11月26日のデジタルワールドプレミアでは「F9」という名称で紹介されたモデルのスペックです。
スーパー9(F9)は140kmと、キムコ製電動スクーター最大の航続距離を誇り、0〜50km/h加速3秒、最高速110km/hを発揮します。モーターは9.4kW出力のハイパワーで、バッテリーは96V/44Ahを採用。最新の急速充電技術により、2時間でのフル充電が可能です。
アイオネックス規格の交換式バッテリーではなく、専用の車体搭載バッテリーを使うスーパー9(F9)は、そのバッテリーを車体の構成部品としても活用するなど、興味深いデザインを採用しています。またホイールインモーターやシングルドライブ(変速機なし)が主流の電動スクーターに、あえて自動2速変速を組み込んでいる点も技術的に面白いですね。
F9 主要諸元
[モーター] 型式 セントラルモーター 出力9.4kW 最大トルク 30Nm 航続距離 140km
[バッテリー] リチウムイオン 容量 96V/44Ah/4,180Wh バッテリー重量 17kg
[寸法・重量] 全長x全幅x全高 1,831x 714 x 1,085mm シート高 784mm ホイールベース 1,236mm 乾燥重量 107kg タイヤサイズ 前110/80-14 後140/70-14
ちなみに台湾の家庭用電源プラグは110V/60Hzなのですが、キムコは南北アメリカ大陸、欧州、アジア/太平洋、そして中東やアフリカとワールドワイドに販売網を展開しているので、それぞれの地域レギュレーション対応を心配する必要はないでしょう。これら最新のキムコ製電動スクーターを、日本でも体験できるようになれば・・・それは嬉しいことですね!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)