文:中村浩史/写真:松川 忍
KTM「250DUKE」インプレ・歴史解説
オフ界のロールスロイス、ついにオンロードに進出
オーストリア・KTMの第1号モデルは1953年、ロータックス製エンジンを搭載した「モーゼル」なるブランドの98ccモデルのモペッドだ。
「KTM」ブランドが正式に採用されたのは55年のことで、創業者エルンスト・クロンライフの「K」、ハンス・トルケンポルツの「T」、発祥地名マッティンホーフェンの「M」を組み合わせてメーカー名となったもの。
日本でKTMの名が知られるようになったのは70年代終盤で「オフロード界のロールスロイス」なんて呼ばれていたこともあったほど。この頃は、まだオフロードモデルメーカーだ。
日本に市販モデルが紹介されるようになったのは90年代中盤で、それが620DUKE。エンデューロバイクのエンジンを使用したストリートバイクで、全体のフォルムはまだまだオフロードバイク。ショートストローク、クランクウェイトの軽い、ガンガン回るハイパワーエンジンだった。
この600ccクラスのDUKEシリーズが数世代にわたってモデルチェンジしたあと、11年に登場したのが完全新設計の125DUKEだった。
前後17インチのフルサイズで、水冷DOHC4バルブ単気筒エンジン、前後キャストホイール、倒立フォークにフルデジタルメーターと、従来の125ccクラスの枠を超えた装備と完成度のストリートバイクだったのだ。
この125DUKEが大ヒット。18年に発表された資料では、KTM本社は7年連続で販売台数を更新。日本市場でも、毎年のように販売台数を更新し、「世界で最も急成長しているバイクメーカー」とも言われたのも、このスモールDUKE誕生がきっかけだ。
スモールDUKEシリーズは、125スタートで、その後200、390、そして250ccとバリエーションを増やし、日本市場でも完全に定着。
KTMがオフロードモデルメーカーだなんて、誰も言わなくなった。
390は力強すぎて125ではちょっとヨワい
実は筆者は、2011年デビューの125DUKEに乗って、あまりの出来の良さに購入したことがある。それまでほぼビッグバイク生活で、スクーターはまだしも、125ccスポーツなんて眼中になかったのに。
それまで僕が知っていた125ccスポーツと言えば、安かろう悪かろうがほとんど。ほぼ250ccのお下がりで安普請、性能はそれなり。装備もプアで「125ccだもん、こんなもんだよ」で済ませられるものだった。
もちろん、それは日本での125ccのポジショニングが、低コストを優先するものだったから。歴史上、まれにスマッシュヒットモデルもあったけれど、あくまで一過性のもので、大きな流れにはなりえなかったのだ。
そこに125DUKEの登場。正直、僕としてはその頃はまだKTM=オフロードモデルメーカーというイメージが強くて、125DUKEのことを初めてに近いKTM製オンロードモデルだと思っていたのに、車体のしっかり感や動きの良さ、エンジンのスムーズさ、それに装備の充実もあって、その魅力にやられてしまったのだ。
もちろん、しっかりした車体構成に15PSの出力はアンダーパワーだと感じたことも多かったけれど、これはサーキットを走っても車体がびくともしないという「車体が勝っている」状態でもあったため、これはこういうキャラクターなんだと納得できた。
なにより125DUKEは、ヨーロッパでの「A1ライセンス」(日本でいう原付免許のようなもの)に適合した上限出力15PSのモデルとして生まれたのだ。
125DUKEはその後、ほぼ同じ車体構成で200cc、390ccへとバリエーションを増やし、後に200ccは250ccへと進化。200ccが登場してから、日本のマーケットに一番適しているであろう「定番の排気量」である250ccの発売が待ち望まれていたが、それがいよいよ15年に登場。これでスモールDUKEシリーズが完成、ということになったのだ。
正直いって、125はアンダーパワーだし、200はなんで250じゃないんだろう感が強く、そして390は車体サイズの割に力がありすぎる、と感じた人は多かっただろう。
ちなみに15PSの125と車体構成が同じまま、250は30PS、390は44PS。車体剛性は排気量別に最適化されているというものの、390の出力が3倍となると、なかなかのジャジャ馬に感じられることも少なくない。その意味で250がちょうどいい、とする意見が多いのだ。
そのスモールDUKE、車体サイズは国産250ccスポーツよりややコンパクト。ホイールベースはCB250Rとほぼ同じで、車両重量はジクサー250と同じくらい。全長×全幅×全高のデータは発表されていないが、CBよりも短く背が高い印象だ。絶版モデルとなってしまったが、ニンジャ250SLの印象に近い。
シート高は830mmと、さほど足つきに配慮されていないのが外国車らしい。国産車で言えばCRF250Lと同じ数字で、CRFは単気筒エンジンなぶん車体幅もスリムで、足つき性はむしろCRFの方がいいのだ。
けれど、この「腰高」な印象がDUKEのキャラクターのひとつになっていて、重心が高い分「重いものが高いところにある」から、ハンドリングにヒラヒラ感があるのだ。
2011年に日本発売された125を皮切りに、200、390と増殖したスモールDUKEシリーズ。250は15年に登場し、17年には現行モデルに進化。ほぼ同じサイズのボディに125/250/390の排気量を持つDUKEだけに、エンジンと車体のバランスでは250が最良とも言われている。
200DUKEがカタログ落ちして、現在のスモールDUKEは125/250/390の3モデル。ほぼ同じサイズのボディで3種類のモデルをラインアップしていることになる。
税込価格は125:58万9000円/390:72万9000円