文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:南孝幸
ヤマハ「YZF-R7」インプレ(宮崎敬一郎)
扱いやすく懐の深いバランスの良いマシン
ヤマハのYZFシリーズには、R1やR6といった、使いこなすのに高いスキルと相応のコースが必要なトップスーパースポーツがある。一方で、R25、R3といったエントリーユーザーのコミューターにもなるスポーティなスタンダードモデルもラインアップされている。今回登場したR7はその中間に位置するモデル。コンセプトは「走る楽しさを極めるスーパースポーツ」だ。
ともすれば、こういった立ち位置のモデルは中途半端なイメージを持たれがちだ。物足りないと思うのであれば、R1やR6を颯爽と操ればいいのだが、あいにくそんなスキルは持ち合わせていない…そんなライダーがR7のターゲットなのだ。
ベースとなっているのはベストセラーモデルのMT-07。エンジンは基本的に共通で、パワーもMTと同じ73PS強だし、フレームも基本的にMTのものがベース。フロント回りのアライメントを見直し、回頭性とフロントの節度を増幅しつつ、ピボットを補強。前後の足回りをかなりスポーティな専用セッティングとし、ライダーの好みに合わせてリセッティングもできるように変更してある。
バイクというのは面白い。R7とMTの構造的な違いはおおむねそんなものなんだが、走るとまるで違うのだ!
今回はサーキットでの試乗だったが、MTならとても無理なハイペースで走れるし、操っていて愉しい。一方で、スポーツライディングを意識せずに普通に操ってみると、MTよりライポジがキツいだけで、街でも取り回しは良さそうだ。
トルキーで瞬発力のあるエンジンなど、MTのフレンドリーなところは受け継いでいて、錯覚かもしれないが、乗り心地などはR7の方がいいようにさえ感じる。
出で立ちは勇ましいが、走り出した瞬間に実感できる軽さ、程よく穏やかだが元気なエンジン、上質な足回りを奢られたような接地感が身体にしみ込んでくる。R7は取っ付きやすさ、扱いやすさが最大の武器なのだ。
長いバンクセンサーを接地させるほどのリーンアングルでも常に安定しているし、路面の荒れをそんな状況で乗り越えてもなかなか破綻しない。これがMTとは大きく違うところ。さすがに上級スーパースポーツほどのポテンシャルではないものの、かなり高いレベルの走りまで対応するバランスの良さがある。
公道でもスーパースポーツの楽しさを味わえるまとまりの良さ
このR7の武器である、身軽さとトルクバンドの広さを活かせば、ライダーのテクニック次第では、コースによってはR6をバックミラーのゴミにすることがあるかもしれない。ただし、調子に乗って攻め込んでいくと、そこそこスポーティなタイヤであるブリヂストンS22の限界を感じると思う。
R7には、多くのライダーがそこまで使い切ることのできる可能性がある。また、ノーマル設定からサスをリセッティングしたり(具体的にはフロントのイニシャルを少し上げるくらい)でさらに遊べるようになると思うし、タイヤをよりハイグリップなものに履き替えれば、車体が音を上げるまで使いこなせる可能性だってあるだろう。
このR7、ステップアップするための単なる「腰掛け」バイクではない。もちろん、そういった使い方もできるだろうが、これはこれで完成された、魅力的なバイクなのだ。
このルックス通り、スポーティなスタンダードバイクには変わりないのだが、これほどプライスを抑えられているにも拘らず、安っぽさや背伸びのしわ寄せを感じないのはすばらしい魅力。それにスポーツバイクを思う存分使い切る醍醐味を、サーキット以外でも安全に楽しめる完成度付き。存分に使える、実にまとまりのいいバイクだ。