文:オートバイ編集部/写真:南 孝幸
【開発者インタビュー】ヤマハ「YZF-R7」
純粋にライディングを楽しめる「身近な存在」
「アメリカで、MT-07にカウルを付けて草レースを楽しむムーブメントがありまして、それがYZF-R7の商品企画のきっかけになりました。ヤマハでも調査をして、これは面白そうだ、ということで開発がスタートしました。2017年ごろのことです」
YZF-R7開発のきっかけを語るのは、プロジェクトリーダーの今村さん。初代MT-07の頃から、カウル付きモデルへの要望は各国からあったようで、R7が誕生するきっかけも前々から芽吹いていたようだ。
そんなR7の開発コンセプトは「Fun master of Supersports」。R1やR6が「トラックでの走りを極める」モデルだとしたら、R7は「楽しさを極める」モデル。「かっこよくて、ちょうどいい」スーパースポーツを目指したそうだ。
その「ちょうどいい」とはどういうことなのか、今村さんに尋ねてみた。
「ちょうどいい、という言葉で表現していますが、具体的には『扱い切れる喜び』に主眼を置いています。安心してアクセルを開けられ、峠道が爽快だったり、時にはサーキットに挑戦してみたくなるようなスポーツバイクを目指して造り込みました。誰が見てもカッコいい、というのも大事な要素です」
そんな「カッコいい」フォルムを創り出したのが、デザイナーの木下さん。聞けば、ストリップ状態のマシンを1カ月近く眺めながら「どうしたらカッコいいものが創れるか」考え抜いたのだそうだ。
「こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、本当に楽しくて、仕事というより趣味のような感覚でした(笑)」
そんな木下さんがたどり着いたデザインコンセプトが「スキニープロポーション」。空力を意識したフルカウルでありながら、妥協なくスリムに造り込んだそうだ。
そんなR7の大きな特徴が、M字ダクトにビルトインされたヘッドライト。このデザインには相当苦労したようだ。
「はじめはダクト内にライトを入れたくなくて、色々悩みましたが、スケッチを重ねるうちに、段々カッコよく見えてきまして…(笑)。あとは『新しい時代のRシリーズ』の顔を造りたい、という気持ちもありました」
こうした苦労の末に生まれたデザインに合わせて、開発チームは車体をスリムに造り込む努力を重ねることになる。今村さんがその時のことを振り返ってくれた。
「デザインを見て、もうコレだ、となりまして。それをできるだけカタチにできるよう、とことん造り込んでいきました」
お話を伺っていて感じたのは、開発メンバーの皆さんが楽しみながら開発をしているということ。「苦労もありましたが、楽しかったですね」と今村さんも教えてくれた。
最後に、そんな開発チームの皆さんからメッセージをいただいた。
「ちょうどいい、というコンセプトは妥協ではなく、乗り手に真摯に向き合えることだと思っています。バイクと一緒に成長していく感覚を、ヤマハのバイクの中で一番楽しめるのがR7だと思っています」(兎田さん)
「同じエンジンでも車体とのマッチングでこれだけ違うのか、と驚いていただける仕上がりになっています。楽しんで下さい」(中川さん)
「ツナギはあるけどトランポはない。ライセンスはないけどヒザなら擦れる。若者だけでなく、そんなオジサンにもぜひ楽しんでいただきたいです。個人的にはリアクオーターから眺める、えぐれるようなプロポーションを見ていただきたいです」(木下さん)
「リターンライダーがいったん戻る場所としても、R7は手の届くところにあるバイクだと思いますし、これからバイクを楽しもう、という若者にも一番近くにあるスポーツバイクだと思っています。正面から眺めた時の、上質さが凝縮したようなコンパクト感にも注目して下さい」(今村さん)
誰もが楽しめるスポーツバイクを追求して誕生したR7が、Rシリーズの新たなる扉を開く。
文:オートバイ編集部/写真:南 孝幸