強豪が出揃った超激戦クラス
JSB1000クラスをメインクラスとして、ST1000、ST600、J-GP3、JP250の5クラスが行なわれる全日本ロードレース。どのクラスにも新シーズンの見どころは多いんだけれど、今年はST600の充実度がスゴい! ベテラン、若手、それに新加入の「ワールドクラス」のライダーが出揃ったクラスなのです。
21年チャンピオンの埜口遥希は、22年にはアジア選手権AST1000に転出。ゼッケン1不在で、トップゼッケンは小山知良(日本郵便ホンダドリームTP)、そこに昨年の最終戦までチャンピオン争いを繰り広げた荒川晃大(モトバムホンダ)、長尾健吾(TBB チームけんけんYTch L8)らに加え、新規参戦のメンバーがスゴい。
まずは元GPライダー長島哲太が設立した「TN45withMotoUPレーシング」から参戦の羽田大河と西村硝。羽田と西村はアジア選手権からスペイン選手権に参戦していたライダーで、西村はJP250に出ていたかな、羽田は全日本フル参戦は2019年以来。その時は、あくまでもワンノブゼムで、ふたりとも『全日本選手権の軽量級からスタートして世界へ、という手順を踏まない新世代』ライダーの典型。海外で武者修行をしての凱旋帰国、という感じのライダーですね。
さらに昨年までグランプリMoto3クラスを走っていた國井勇輝もSDGモータースポーツRTハルクプロから全日本へ初フル参戦。國井も、羽田や西村と同じく海外育ちの印象が強いライダーで、Moto3では成績を残せませんでしたが、まだ19歳になったばっかりのリスタートです。
さらにアジアCBR250Rドリームカップチャンピオンの女性ライダー、ムクラダ・サラプーチもAstemoホンダドリームSIRからエントリー。
こんなかんじでヤングタイガーにベテラン、凱旋組が入り乱れるクラスなのです。
開幕戦ということで、木曜からフリー走行がスタートしたもてぎ大会。不安定な天候に悩ませられながら、初日1回目は荒川→小山、2回目は國井→荒川→小山、2日目1回目は松岡玲(伊藤レーシングBORGヤマハ)→荒川、2回目は荒川→羽田、といったオーダー。
そして土曜日の公式予選では、荒川がポールポジションを獲得。2番手に羽田、3番手は荒川のチームメイト、モトバムホンダ鈴木光来、4番手に國井、5番手に阿部恵斗(Nitroレーシング51ヤマハ)が入り、この5人がコースレコードを更新。予選から、ものすごいハイペースです!
「僕、いつも予選はほどほどでタイムアタックは頑張んないんだけど、このくらいだ、ってタイム出して帰ってきたら、いつも5~6番手なのに、今回は18番手とかで、えー!ってもう1回行って、53秒まん中出して、自己ベスト、これなら大丈夫だろ、って見たら8番手って! なんかレベルの上がりっぷりスゴいんですけど!」と小山。ベテラン小山も驚く、22年シーズンのST600なのです。
スタートからゴールまで、予想にたがわぬ大混戦!
スタートで飛び出してホールショットを獲ったのは荒川。すぐ後方に羽田、松岡、國井が続き、3列目8番手スタートの小山も、いつの間にかトップグループの後方につけます。このへんがやっぱりベテランの味。大事なのはイッパツのタイムじゃないよ、レースは長いんだ、って声が聞こえてきそう。
トップグループは7~8台のタテ長フォーメーション。スタートからトップに立った荒川は、序盤に羽田にかわされますが、すぐに逆転。行けるとこまで行く、って走りが若い! 羽田は慌てず焦らず、この若武者の走りを真後ろで見ていた--そんな印象です。羽田23歳、荒川と松岡、國井は19歳、小山は荒川たちより20コ上の39歳! 小山がんばれ!ってつい叫んじゃうよねぇ。
羽田と荒川がトップ争いするうちに、後方から國井が3番手へ、そして荒川もかわして2番手浮上、3番手には小山が上がって、荒川が4番手へ。ここまでCBR600RRで、5番手阿部、6番手松岡、7番手長尾がYZF-R6です。新型のウィングつきCBR、速いッ!
この後、また荒川がポジションを回復して羽田の背後につけたかと思えば、また國井、小山にかわされて4番手とトップ4の順位は変動。スタートからずっと、7台のトップグループが僅差で走る中、ラスト2周で國井が転倒! 残った6台が羽田→小山→荒川→松岡→阿部→長尾の順でフィニッシュし、トップ羽田と6位長尾の差が、なんと1秒5! 7位以下を8秒強引き離してのトップ6フィニッシュ! スゴいレースでした!
「荒川選手が速かったんで、とりあえずついていって2台で逃げようかなと思ったんですが、僕が前に出てフタをして、集団を大きくしようかと思って。僕のアベレージも悪くなかったんで、後方でごちゃごちゃやってくれたらいいなぁ、と思って走りました。これが全日本初優勝、うれしいです!」とは海外組(っていっていいのかな)の羽田。羽田の目標は、またスペインに、また世界の舞台に戻って走りたい、という思いでしょうね。
「序盤、ポジションうまく上げられて、後半はみんなタイヤが苦しそうだった中、僕は少しタイヤ消耗してからのほうが走りやすかったんです。最後はタイガに仕掛けようと思ったんだけど、トップグループが大集団だったんで、無理して順位をドンと落としちゃうよりはいいかな。タイガはもう40になるオヤジにギリで勝ってるようじゃまだまだだぞ」とは小山。これがベテランの味ですね。1周より1レース、1レースより1年を通じて走りを組み立てるんです。
「最初からずっと逃げ切りたいと思ってたんですが、止められて、自分のペースで走れなかった。苦手なもてぎでの表彰台はうれしいけど、それ以上に負けて悔しい。自分の弱いところが出たレース、しっかり対策して次は負けないようにしたいです。羽田さん、小山さんの走りを見て勉強もできました」とは荒川。こうやって若いライダーが力をつけていくのが今年のST600なんです。
写真/小懸清志 中村浩史 文責/中村浩史