街のバイクショップで手に入るというのに、最高出力200PSオーバー、その最高速は場所さえ許せば300km/h! それでも、ストリートランでも楽しめる誰にでも厳しく、楽しいスーパースポーツ。その源流にGSX-Rがあった。
文:中村浩史/写真:赤松 孝
画像: SUZUKI GSX-R1000R ABS 総排気量:999cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒 シート高:825mm 車両重量:203kg 税込価格:215万6000円

SUZUKI GSX-R1000R ABS

総排気量:999cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
シート高:825mm
車両重量:203kg

税込価格:215万6000円

【歴史考察】「レーサーレプリカ」から「スーパースポーツ」へ

スゴいバイクに乗りたくないかね。そんなスズキのスピリッツ

GSX-R1000Rをカテゴリー分けすると、スーパースポーツ、ってことになる。かつては「レーサーレプリカ」と呼ばれていたカテゴリーだけれど、特になんのレーサーをレプリカしているわけでもないから、スポーツバイクのスゴいやつ、という意味で自然にスーパースポーツと呼ばれるようになったのだろう。

レーサーレプリカの始まりというのは実は諸説あって、それは1980年登場のヤマハRZ250だ、という人がいれば、1982年デビューのホンダVT250Fだって人もいる。

けれどRZの頃は、たしかにレーサーTZのエッセンスをちりばめてはいたけれど、まだレーサーレプリカなんて言葉はほとんど使われていなかったし、VTにいたっては、当時考えられなかったような、水冷V型2気筒DOHC4バルブなんて夢のエンジンを市販するなんて、まるでレーシングマシンNR500! なんて意味で使われることが多かった。

画像: SUZUKI RG250Γ www.autoby.jp

SUZUKI RG250Γ

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その意味でレーサーレプリカの元祖は、やはり1983年に発売されたスズキRG250Γだと思う。市販車で初めて使用されたアルミフレーム、カウルという名前が初めて使われ、純正タイヤに採用されたのは、当時の超高級品ミシュランラジアルA55/M55、それも当時WGPレーサーで流行していたフロント16インチサイズ。

不便じゃない? といわれた3000回転以下の数字が刻まれていないタコメーターも、ヤッコダコのようで不格好だと言われたテールカウルのデザインも、その理由を問われた、先に亡くなったスズキの名エンジニア横内悦夫さんが「だってレーシングマシンRG500Γがそうですからね」と答えたのだという。

ずいぶん後になってから、その横内さんにことの真偽を訪ねたこともある。

──横内さん、ほんとにそんなことおっしゃったんですか?
「確かに言ったねぇ。だってデザインに理由なんてものはないんだから。その時にいいと思うものを使うじゃない。あの頃は、あなた方、レーシングマシンに乗りたくないかね? って気持ちでガンマを作ったんだ」

スゴいバイクに、ワクワクするバイクに乗せてあげるよ! そんなスズキのスピリッツ。その気持ちは1984年に400ccのGSX-Rに、そして1985年にはRG400/500Γと、とうとう750ccに飛び火する。

それがGSX-R750だった。

画像1: SUZUKI GSX-R750 www.autoby.jp

SUZUKI GSX-R750

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思えば遠くへきたもんだ。憧れのバイクは、誰のため?

1985年デビューのGSX-R750は、750ccクラス初のレーサーレプリカ=スーパースポーツとして、文句なしに当時のナンバー1パフォーマンスバイクだった。

ホンダはCBX750F、ヤマハはFZ750、カワサキはGPZ750Fと750ニンジャがラインアップの柱だった時期に、750cc市販車初のアルミフレームを採用し、CBXより40kg、FZよりも30kg、750ニンジャより50kgも軽量なボディ、そしてフルパワー100PSをマークした新設計の油冷エンジンを引っ提げ、瞬く間にベストセラーとなった。

GSX-R750は、人気のピークへ向かっていた4ストローク車によるレースにも確実に影響を与えたモデルでもあった。当時人気の4ストロークのレースと言えば思い浮かぶ、鈴鹿8時間耐久レース、AMAスーパーバイク、世界耐久選手権(海外のレース出場は1986年から)へのGSX-Rエントラントが一気に増加。その後につながるレースの4ストローク化に拍車をかけた。

GSX-R750が発売され、それを追うようにホンダはRC30を、ヤマハはFZR750を、そしてカワサキがZXR750を発売し、その勢いでTT-F1世界選手権から世界スーパーバイクがスタート。それもすべて、GSX-R750が起こしたかもしれないうねりだ。

SUZUKI GSX-R750

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その初代GSX-R750は、トップパフォーマンスバイクとはいえ、軽量コンパクトでハイパワー、素直なハンドリングがすばらしく扱いやすいスポーツバイクだった。国内最高出力の自主規制値の77PSだったとはいえ、CBX、FZ、ナナハンニンジャの77PSとはケタが違う力強さで、アッという間に世界中のベストセラーへ。

その余波が今度は1100ccクラスにも及び、GSX-R1100やFZR1000を生み出し、後に1000ccクラスのスーパースポーツとしてCBR900RRやYZF-R1誕生も呼び込んだと言えるかもしれない。

その間スーパースポーツ、特にビッグバイクのスーパースポーツは、とんでもないところまで来てしまった。CBR900RRや初代YZF-R1期あたりまでは、まだまだ何とか扱えた……ような気がする。

それが、ワールドスーパーバイクの1000cc化や、ついに世界グランプリのマシンが4ストローク化されると、どんどん市販車にフィードバックされ、最高出力200PSは当たり前、選択式のパワーモードにトラクションコントロール、ウィリー制御やローンチコントロール、コーナリングABSと次々に電子制御技術も採用されることになった。

いつしか、1000ccクラスのスポーツバイクは、誰が、いつ、どこで乗るんだ? ──そんなとんでもなく高性能すぎるオートバイになってしまった。

画像: GSX-Rシリーズの初1000㏄モデル誕生は2001年。2003年、2005年、2007年、2009年、2012年にモデルチェンジを受け、現行モデルは2017年に登場、GSX-R1000シリーズとしては初めての日本正規販売モデルとなった。

GSX-Rシリーズの初1000㏄モデル誕生は2001年。2003年、2005年、2007年、2009年、2012年にモデルチェンジを受け、現行モデルは2017年に登場、GSX-R1000シリーズとしては初めての日本正規販売モデルとなった。

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