文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年5月9日に公開されたものを転載しています。
ゆっくり走るだけでは完走できない、過酷なトライアルであるSSDT
20世紀初頭の1909年から続くSSDTは、世界で最も知られているトライアルイベントのひとつです。フランスの電動トライアル/オフロード車メーカーのEMは、2020年にも同社のEピュアでSSDTに参戦することを計画していましたが、COVID-19パンデミックによる大会中止により、2022年大会でその試みがついに実現したわけです。
EMライダーとしてSSDTに参戦したのは、2021年度・・・最後のシーズンとなったFIM トライアルE ワールドカップ王者に輝いたフランスのガエル・シャタヌ。そしてEMの英国インポーターであるインチ・パーフェクト・トライアルズのマシュー・アルプの両名です。
一般にトライアル車は低速な乗り物であり、トライアル競技は専ら低速での操縦技術を問われるモータースポーツ・・・というイメージがあるみたいですが、スコットランドの大自然を舞台にするSSDTは、セクション間の移動をオンタイム(定刻)でこなすためにハイスピード巡航を求められることもあるくらい、"スピード"も求められるイベントです。
量産モデルのスペックで最高速70km/h、1充電の航続距離が43kmというのがEMのEピュアのスペックですが、いくつものセクションをクリアしつつ、1日に180km以上も走行しなければいけないという、ICE(内燃機関)搭載トライアル車でも過酷な6日間の長丁場の闘いを、電動トライアル車で闘い抜くことは実に難しいことなのです・・・。
6日間の過酷な競技ルートを、電動トライアル車で走破しました
6日間の競技の結果、EMのエースであるG.シャタヌは51点のスコアで総合19位で完走。上位50位までに与えられる、スペシャル ファースト クラス アワードを見事獲得しました。そしてもう1台のEMを駆るM.アルプも総合71位(172点)でゴールし、ファースト クラス アワードを得ています。
なおSSDTは排気量別に、200cc以下、201〜250cc、250cc以上の3クラスが設定されていますが、Eピュア(最高出力11kW)はEUライセンス区分ではICE125cc相当になるため、見事G.シャタヌは200cc以下の部門でのベストパフォーマンス賞を与えられることになりました。
なおG.シャタヌはそのほか、英国圏以外の最も好成績なライダーに与えられるジミー・ベック・チャレンジトロフィーも受賞。電動トライアル車初のSSDT完走という歴史的な偉業に加え、EMのトライアル車としてのポテンシャルの高さを世に示すことに成功したといえるでしょう。
6月10〜12日には、いよいよ今シーズンの世界トライアル選手権がスペインの地で開幕しますが、昨年度限りで電動トライアル車のみのトライアルEが発展的解消したことで、今シーズンからは各クラスに電動トライアル車の参加が認められることになっています。
SSDTで好成績を残したG.シャタヌとEMが、新しい局面を迎えた世界トライアル選手権でどれだけ電動トライアル車のパフォーマンスを披露してくれるのか・・・? 今シーズンの開幕戦を楽しみに待ちたいですね!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)