文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年6月11日に公開されたものを転載しています。
ドイツのキッズ用モトクロッサーを作るメーカー、HVR
ドイツのHVRは2017年に、ニュルンベルク近郊のヴァイゼンドルフで設立されたキッズ用電動モトクロッサーの製造業社です。これまでにHVRは「50.4シリーズ」や「60.4」というモデルを、身長105〜120cm、115〜130cm、125〜140cm、135〜160cmの適正区分で販売。2019年の第37回国際ADACスーパークロスでは、国際SX5クラスにエマ・ヌッサーが「50.4」で出場して7位完走しています。
そんなHVRが「65cc」クラス向けに開発したのが、新製品の「65プロ」です。対象年齢は8〜13歳くらいで、「60.4」が「50.4シリーズ」の駆動部を使っているのに対し、65プロはよりパワフルな新型モーターと、約2倍の大きさで交換可能となった新型バッテリーを採用しています。
50ccと、85/150ccの間を埋める存在としての65ccクラス
65ccクラスは、遠心自動クラッチ50ccマシンから85/150ccマシンへステップアップする前に、シフト/クラッチ操作やマシン挙動を習熟するのに最適なカテゴリーです。この枠には、かつてはカワサキKX60(1983年モデル〜)くらいしかなかったのですが、1998年にはKTMが65SXを投入。カワサキも2000年モデルからはKX65を発売し、2018年にはヤマハもYZ65を用意するようになりました。
HVRが発表した65プロはその車名が示すとおり、KTM 65SXやその兄弟モデルのハスクバーナTC65、そしてカワサキKX65やヤマハYZ65と戦うことを目的に作られた電動モデルです。新型モーターのローター部はほかのHVR製品同様に液冷となっており、水冷ICE搭載車のようなラジエターがなくても、効率良くハウジング部で放熱できる設計になっています。
近年、モトクロッサー製造メーカーの多くは、最高出力をカタログに記載しないことが定着していますが、HVR 65プロは13.5kW≒18.5馬力としっかり公表しています。このクラスの代表的なICE搭載車・・・KTM 65SXの最高出力は標準状態で16馬力と言われているので、65プロは出力に関しては十分既存のICE搭載モデルに対抗することができるでしょう。
なおバッテリーは簡単に脱着ができるように設計されており、必要に応じて2〜3分でバッテリー交換することが可能とのこと。バッテリーはフレームに4本のボルトでしっかり固定されているため、どのような負荷がかかっても問題ない、と説明しています。
ICE搭載車に対して、65プロのアドバンテージになるのは、変速/クラッチ操作が不要でそれら操作をする際に生じるタイムロスと手足の疲労の心配がないこと、スタート時の発進のしやすさとエンストがないこと(エンジンがそもそもないので)、そして電動モーターの35Nmという強大なトルクでしょう。
フレームは既存モデルの60.4よりも軽量化され、CNC加工のトリプルクランプも設計を見直して軽量化。サスペンションは前後ともに、ファストエース製のフルアジャスタブルタイプ。フロントフォーク位置とリアダンパーのネジ式ダンパーアイを調整することで、シート高は約760mmから約830mmの間で変化させることが可能になっています。
その価格設定は、非常に戦略的? な5,390ユーロ≒76万2,100円
HVR 65プロは電動車ならでは・・・の機能として、スマートフォンを利用したセッティング機能を採用。速度、レスポンス、回生付きエンジンブレーキなどを個別に設定することができます。工具不要で動力系の各種セッティングができるのは、大きなメリットといえるでしょう。
気になるHVR 65プロの価格ですが、充電器とBluetoothモジュール、そしてフォールディングタイプのスタンドを含めて5,390ユーロ≒76万2,100円。なお駆動部(モーター、バッテリー、コントローラー)は1年間の保証付きです。
カワサキKX65の32万4,500円、またはヤマハYZ65の49万5,000円という日本市場価格からすると「やっぱり電動車って高い!!」と思ってしまう人がほとんどでしょう。しかし、欧州市場で最もポピュラーなモデルであるKTM 65SX(2023年型)の価格・・・5,299ユーロ≒74万9,250円と並べてみると、一般的なICE搭載車とEVの価格差ほどには差がない、というか、むしろ非常に接近しているという印象を、多くの人は受けるのではないでしょうか?
現在HVRのディーラーは、ドイツのほかフランス、ベルギー、オランダ、スイス、オーストリア・・・と欧州圏のみにあります。つまりHVRとしては欧州の大メーカーの製品であるKTMの65SX(およびハスクバーナTC65)を"狙い撃ち"でこの価格設定にした・・・と考えるのが自然でしょう。
ちなみに日本では、50ccのチャイルドクロスにKTM SX-E 5、ハスクバーナ EE 5、ガスガス MC-E 5といった電動モデル3機種が、ポイント付与なしのエキシビション参加できるようになりました。もしHVR 65プロが競技の世界や商業的に成功したら、キッズ65にもHVR 65プロの参加を認めよう!! という流れになるのですかね?
という妄想はさておき? 65プロのムービーが公開されているので、最後にご紹介いたします。走行シーンがなくて、各部ディティールの紹介だけというのがちょっと残念ですが、走行シーンは今度のお楽しみということで、楽しみに待ちましょう。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)