文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
スズキ「GSX-S750 ABS」インプレ(宮崎敬一郎)
電子制御に頼らずとも存分に走りを堪能できる
久しぶりにGSX-S750に試乗した。リッタークラスのスポーツネイキッドについていける動力性能を持ち、車体はコンパクトで取り回しは400なみに軽い…そんな「いいとこ取り」の魅力がセールスポイントだ。
現在、600〜900ccあたりのミドルスポーツは、スタンダードバイクはもちろん、アドベンチャーも含め、世界中で大ヒットしている機種が結構ある。だが、不思議なことに、スポーツ志向が強ければ強いほど、750と銘打つとマーケットの食指は活発には動かないようだ。排ガス規制の波が押し寄せたこともあって、このGSX-S750も、この2022年モデルが最後となるようだ。
しかし、そんなGSX-S750を改めてじっくり試乗してみると、冒頭で紹介した魅力が今なお光っている。
サウンドも素晴らしい。600〜650ccクラスよりさらに100cc大きいだけあって、低音の効いた、リッタークラスと変わらない音色を奏でる。GSX-S特有のサウンドチューニングの効果もあるが「タダモノではない」感がある。走り去るこのバイクを道端で聞くときのサウンドも迫力いっぱいだ。
流行のパワーモード切り換えなどは入っていないシンプルなエンジンだが、非常に扱いやすい。全回転域を通してガツンとくるような硬いレスポンスこそしないものの、スロットル開度の強弱に対する応答はダイレクトで必要なパワーを確実に抽出できる。吹け上がりもネオクラのビッグネイキッドのような落ち着いたもの。コレがとてもいい。でもスペックは112馬力と十分に強力だ。
6000回転からトルクのコシが強くなり、8000〜1万回転がパワーバンド。いまや150馬力以上が中心のリッタースポーツNKほど気を遣うことなく、ガンガン開けられる。車体がしっかりしているのと、ちょっとおせっかい気味のトラコンが入ってるので、躊躇なく開けられるのだ。
フレームはエンジンを抱え込むSS的なツインビームだが、ガチガチに硬すぎるような手応えではない。節度はしっかりしているが、急激な切り返しなどではしっとりとした優しい感触もある。このクラスで最も小柄なMT-07ほどキビキビしてはいないが、それに近い俊敏な動きも可能だ。
足回りは特に上質な動きではないが、街乗りから峠道までソツなく、上手にスタビリティを生んでくれる。路面に目立った荒れのない良路では、2速、3速で思いきり開けるようなコーナリングでも破綻しにくい。
旋回性自体も強力で、リーンさせると同時にフロントからグイグイ向きを変え、スロットルを合わせるとまたさらに安定して、バランスよく向きを変える。その操り方も自在で、カリカリのスーパースポーツのように、手際よくコーナリングワークをしなければ本来の旋回性が出せない……といったイジワルなことはない。
ハンドルを使って寝かし込むだけでも、コーナーの手前からスロットルを開けながらアプローチしても本来の旋回力を発揮してくれ、非常にイージーだ。さすがに路面の荒れが多いと簡単にラインを外側に移すが、このバイクは本来スポーティなことも楽しめるロードスター。それにしてはとにかくよく頑張る。
しかしながら、ABSの制動力とそのコントロール性はすばらしいが、路面の荒れで跳ねてしまうフロントサスと相まって、荒れた路面でのスポーツ制動は辛い。200万くらいするスポーツバイクとは違うのだ。
GSX-S750は、わずかな電子アシストだけで、バイクとしての「素」の魅力を堪能できるバランスを保っている。過度に尖らなかったエンジン特性や、スポーティな走りをなかなか高いクオリティでキープさせたこだわりなど、今となっては希少な「味」がそこにある。それでいて、小柄なライダーや、ビッグバイクビギナーにも手頃に使いこなせる快速ネイキッドなのだ。