文・写真:中村浩史
プロフィール
森岡 實(もりおか みのる)さん
1961年に本田技術研究所に入社し、4輪スポーツカー「S-360」(ショーモデルのみ)クレイモデル製作を皮切りに、二輪/四輪/汎用製品のデザイナーとして活躍。DAXをはじめエルシノア、CB900/750F、CBX、CX500ターボ、トランザルプ600のデザインを担当した。1942年、熊本県生まれ。
【インタビュー】初代ダックスのデザイナー・森岡實さん
アソビを感じさせてくれるロングシートを装備したDAX
スポーツにビジネス、スクーターにおシャレ系と、バリエーション豊富なのも125cc人気の秘密のひとつ。その中で「レジャー」と呼ばれるアソビ系のカテゴリーがある。
モンキー、GROM、Z125というミニサイズに、いよいよ待望の本命が現われる。それがDAX125だ。
DAXが誕生したのは1969年のこと。1966年にモペット型のリトルホンダ、1967年にモンキー50が生まれ、可愛らしいサイズの手軽なミニバイクが「レジャーバイク」という新しいカテゴリーを作り始めていた。
「モンキーは小さすぎ。もう少し大きなサイズが欲しい」というアメリカからの声が開発のスタートだった。
「モンキーがアメリカでうんと売れて、もう少し大きいモンキーを作ってくれ、って声が上がったんです。それがDAX開発のスタートです」というのはDAXのデザインを担当した森岡さん。
デザイン検討に入った森岡さんは「今まで全くバイクに縁のない人へ」というコンセプトのイメージスケッチを書き上げる。それが当時、ほぼすべてのモデル開発のデザインスケッチに目を通していたというホンダの創始者、本田宗一郎さんの目に止まり、一発で気に入ってもらえたのだという。
「タンクとかサスペンションも消したかったんです。アルミキャストでタンク内蔵のフレームを作って、リアサスはナイトハルト式というゴムバネにして外部露出させないつもりだった」
しかし開発期間の短さで、スチール製プレスフレームに2本ショックという基本構造で市販化へ。それでも独立したタンクが外観からは見えない「バイクっぽくない」スタイリングは衝撃的で、日本をはじめ、アメリカ、ヨーロッパでヒットモデルとなった。
「アメリカでは、クリスマスプレゼント商戦期に、ああいうバイクを店頭に並べておく必要があった。だから半年くらいかな、開発期間は。バックヤードバイクといって、アメリカ家庭の広大な裏庭で乗るバイクとしての人気だったし、ヨーロッパではビーチバイクなんて呼ばれ方もした。女性オーナーがすごく増えた、って聞いた時は、狙いが当たった気がしたね〜」
森岡さんがDAXのスケッチを仕上げてから50余年。いよいよ125ccとなってDAXが復活する。
「実車を見たけど、素晴らしく良くできてるじゃないですか! 大人が乗れる現実的なサイズで、バイクっぽくなさもしっかり生きている。シートの長さがいいよね、あれが遊びに出かけたくなる心を持たせてくれるんです。僕がDAXにこめた願いが、しっかり生きていると思います」
初代ダックスのイメージスケッチ&ファーストプロトタイプ
いろんな先輩デザイナーのスケッチを差し置いて、新人の森岡さんの作品が選ばれた。「今までの『バイク』のイメージから遠く離れたイメージが評価されたんだろうね」と語った。
ダックスホンダ ST50(1969年8月)
初代ダックスは50と70のラインアップ。こちらはダウンマフラー、ダウンフェンダーのST50で、どちらかというと下写真のエクスポートの方が人気だった。
ST50エクスポート(1969年9月)
アップマフラー、アップフェンダーがエクスポート。森岡さんによると、DAXにはオフロードの走破性も持たせたため、こちらが本命だったのかも。
文・写真:中村浩史