天候に翻弄されての、決勝日はずっとドライ!
2019年以来、3年ぶりの開催となった鈴鹿8時間耐久ロードレース。心配された天候も、ウィークの木曜から毎日のように一時的な豪雨に見舞われましたが、決勝日は曇りスタートで、終日ドライコンディションのまま、鈴鹿8耐らしい猛暑に見舞われた大会でした。
3年ぶりの8耐は、土曜まで毎日のようにトップチームがアクシデントに見舞われることになりました。優勝候補の筆頭に挙げられていたのは、前回19年大会のウィナー、カワサキレーシングチーム(=KRT)。対抗に日本に久々に登場するTeam HRC、EWCワールドチャンピオンのヨシムラSERT MotulをはじめとしたEWCレギュラーチームであるYARTヤマハ、TSRホンダフランス、そして日本初登場となるBMWワークスチームであるBMWモトラッド。そこに全日本選手権組がどこまで食い込めるか、が注目された大会でもありました。
金曜の公式予選、土曜のトップ10トライアル(トップ10チームのタイムアタックに変更)の内容はWebオートバイの前回エントリ<https://www.autoby.jp/_ct/17561435>を見ていただくとして、ここでは日曜の決勝のレポートを。
開始5分でアクシデント発生!
日曜日11:30にスタートした決勝レースは、#5 TSRホンダ、ジョシュ・フックのホールショットでスタート! #33 HRC高橋巧、#10 KRTレオン・ハスラムが続き、まずは順当なスタート。
公式予選でバッドラックのあった#1 ヨシムラSERTは、予選22番グリッドスタートながらグレッグ・ブラックがロケットスタートを決め、オープニングラップでなんと7番手まで浮上! #7 YARTはスタートでエンジン始動に手間取り、大きく遅れて15番手あたりからのスタートとなりました。
そして2周目には早くもアクシデント発生! 5番手を走っていた#17 Astemoホンダ作本輝介がスプーンで転倒し、前を走っていた#73 SDGホンダドリームの浦本修充に激突。このクラッシュで、早くもセーフティカー(=SC)が介入することになりました。
SCは約20分間コースにとどまり、SC解除の時点では#33 HRC→#5 TSR→#10 KRT→#1 ヨシムラSERT→#37 BMWモトラッド→#11 SRCカワサキ→#104 TOHOレーシング→#72 桜井ホンダというオーダー。ここから、なんと#1 ヨシムラのスタートライダー、ブラックが猛アタックを仕掛け、8周目あたりで2番手、そしてトップに浮上! もともとブラックはスタートの名人で、世界耐久でも毎レースのように好スタート、ホールショットを決めますが、まさか22番手スタートから一時トップとは!と場内が沸いた瞬間でした。
それからレースはやや落ち着きを取り戻し、#10 ハスラムがトップに浮上、#33 高橋が2番手に上がると、次の周にはその高橋がトップに浮上! #10 ハスラム、#1 ブラック、#5 フックが続き、ここから#33 高橋がぐいぐいぺースを上げ、2番手以下を引き離しにかかります。
#33 高橋と2番手以降との差は、15周目に3秒、20周目には5秒と広がり、各チーム1回目のライダー交代。レース1時間が経過した最初のライダー交代の頃には、1位と2位以下の差は10秒ほどで、8耐の最初の1時間でここまで独走するケースは珍しいです。
レースは、高橋からバトンを受けた#33 HRCの長島哲太と、ハスラムから替わった#10 ジョナサン・レイのマッチアップ。HRCのテストライダーを務め、今大会では主役のひとりにノシ上がった長島と、6Timesスーパーバイクキングのレイとの戦いが注目を集め、#10 カワサキがどこまで#33 ホンダとの差を縮めるかと思われましたが、なんとなんと長島は、格上と思われていたレイの接近を許さず、ライダー交代直後に14秒ほどだった差を、縮められるどころかジリジリと拡大。その差は5周で15秒、10周で16秒、そして2度目のライダーチェンジの頃には22秒にまで拡大していました。
もちろん、レイのペースが遅かったわけではなく、2番手レイと、3番手に上がって来た#7 YARTとの差も周回を重ねるごとに拡大。レイがコースインした頃に12秒ほどだった3番手との差は、2度目のライダーチェンジの頃には30秒以上になっていたのです。開始2時間で、トップ争いは完全に2台だけ……というより、#33 HRCの独走となっていきました。
3スティント目は、#33 HRCが日本初登場のイケル・レコーナ、#10 KRTがヤマハ時代に3度の8耐優勝経験のあるアレックス・ロウズ。ここもロウズの貫録勝ちかと思いきや、22歳のレコーナが快走を披露。ロウズの接近を許さない走りを見せていたかと思えば、ここで#51 モトキッズのマシンが転倒→炎上し、2回目のSCが介入。しかも、1→2番手の間隔が30秒以上も開いていたため、#33 HRCと#10 KRTが別々のSCに先導されることになり、その差がコース半周に固定されてしまいます。
たとえばこれが、同じSCの後方についていたら、どれだけ差があってもその間隔は詰まり、レース展開が一度リセットされるような状況になるんですが、約10分のSC介入時間が解除された時には、HRCとKRTの差は1分15秒くらいまで拡大してしまったのです。しかし、#7 YARTは#10 KRTと同じSCについたことで、1分近くあった差が7秒くらいに縮まっていたのでした。
レースはこの後、#33 HRCがノントラブル&ハイペースで走り続け、#10 KRTも同じようなペースで追うものの、バックマーカーだらけのコースで、1分以上の差を詰めていくのは難しく、さらに100周を数える15時15分ごろには、#10 KRTのレイがバックマーカーをパッシングする際に接触があり、MCシケインでまさかの転倒! レイはすぐにマシンを起こして、マシンチェックのためのピットインもせずに周回を続行するも、トップとの差は1分40秒以上に開いてしまい、16時過ぎにはついに#33 HRC 長島が#10 KRT ハスラムをラップダウン!
これでHRCが全車を周回遅れとして独走態勢が完成。結局このままHRCがトップチェッカーを受け、ホンダ勢としては2014年の高橋/ハスラム/ファン・デル・マーク(当時ハルクプロ)以来、8年ぶりの鈴鹿8耐優勝を決めることになりました。
2番手争いはレース中盤すぎに#7 YARTが#10 KRTをかわし、順位を入れ替えながらその後方に#1 ヨシムラが続きますが、残り1時間ちょうどのタイミングで、2番手を走っていた#7 YARTのニッコロ・カネパが、#74アケノスピードヤマハの菅原陸のインにマシンをねじ込み、菅原を巻き込みながら激しく転倒! #7 YARTはこのムーブでライドスルーペナルティを受け、マシン修復もあって順位を落として#1 ヨシムラSERTが3番手に浮上。
#33 HRC→#10 KRT→#1 ヨシムラSERTの順で表彰台に上がり、ヨシムラSERTはEWCランキングもトップのまま、9/17-18に行なわれる世界耐久最終戦・ボルドール24時間耐久へ、世界チャンピオン連覇をかけて向かうことになりました。
ザビエル・シメオンのコロナウィルス検査陽性反応による出走停止と、事前テストでのシルバン・ギュントーリの転倒→負傷による出場回避で、渡辺とブラックによる2人体制となってしまったヨシムラ。KRTはわずか1週間前にレイとロウズがWSBKチェコ大会を戦ってからの来日となり、レイが土曜に転倒するというアクシデント。TSRも土曜にジーノ・リアが転倒から不出場が決まり、フックとマイク・ディ・メリオの2人体制での決勝レースになるなど、トップチームに次々とアクシデントが襲い掛かった今大会。
HRCも久しぶりの日本での活動に加え、土曜にはレコーナが転倒し、ダメージは最小限に留まったものの、ひとつのほころびを作ってしまったなか、YARTだけノントラブル、3人のライダーの予選タイムもそろって2分05秒台と優勝への最大のチャンスがあったものの、チェッカーまであと1時間というところで他マシンを巻き込んでの転倒を喫してしまいました。
その中で、アクシデントも最小限、文字どおり必勝態勢で臨んできたHRCの強さばかりが目立った大会になりました。光ったのは、現在はHRCのテストライダーを務める長島の絶好調と、実力は折り紙付きの高橋の強力サポート、そして日本初登場のレコーナの予想をはるかに上回るスピード。
速いライダーが強いマシンに乗り、強力なチームがバックアップするという理想的な環境でのHRCの圧勝でした。
表彰台争い以外の戦いやSSTクラスのレースはまた後日!
写真/木立 治 後藤 純 Honda 文責/中村浩史