文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年8月10日に公開されたものを転載しています。
コピー含むスーパーカブ系ICE搭載車を、EVにコンバートするソリューション
ベルギーの自動車デザイナーのベン・スレインと、eモビリティコンサルタントのガイ・サレンスがタッグを組んで運営する「ON」は、独自のローエミッションビークルを製造・開発・販売するビジネスを行なっています。
・・・とはいえ、彼らは大規模製造・開発拠点を有しているわけではなく、優れたアイデアを売り込んだり、そのアイデアに投資してもらうことが現時点のビジネスの"核"になっているようです。いわば数多ある電動系スタートアップのひとつですが、彼らが提唱するプランのひとつの"E-CORE"は、なかなか目の付け所が素晴らしい・・・といえるでしょう。
1958年に誕生した4ストローク空冷水平単気筒50ccのスーパーカブ(C100)は、ホンダを世界一の2輪製造業者に押し上げる推進役となった大ヒット作になりました。周知のとおり、スーパーカブシリーズはICE搭載車として世界で最も多く売れた製品になり、スーパーカブ系エンジンを搭載するモデル群・・・モンキー、ダックス、シャリイなども数多くが広く世界に普及しました。
「ON」が開発している「E-CORE」は、ホンダブランド以外で作られている"コピー製品"を含む、スーパーカブ系エンジンを搭載しているモデルを対象とした、ボルトオンのコンバージョンEV製品です。
つまり、スーパーカブ系のICEとほぼ同寸法の電気モーター/コントローラー/バッテリーのユニットを、ICEの代わりにスーパーカブ系(コピー含む)の車体に積み替えることで、簡単にコンバージョンEVが完成する・・・というアイデアなのです。
4輪のコンバートEVよりも、難しい2輪のコンバートEV。その理由は・・・?
コピー製品含むスーパーカブ系モデルは、フレームからICEを吊り下げるレイアウトで、マウント位置も2ヶ所というシンプルな構造になっています。そのため比較的簡単にICEの積み下ろしが可能であり、その「イジりやすさ」もアマチュアメカニックの趣味人たちに愛されるゆえんになっています。
スーパーカブ系モデルのICE積み下ろしくらいなら余裕でできる人にとっては、ICEの代わりに「E-CORE」を搭載させることは楽なDIYの部類に入るに違いありません。
世界で最も普及している、コピー製品含むスーパーカブ系モデルをコンバートEVの「元ネタ」として選んだのは、ベン・スレインの着眼点の素晴らしさと思います。しかし、世の中のスーパーカブ系モデルの愛好家が、どれだけ各々の愛車をコンバートEV化することについて関心があるのか・・・は、定かではありません。
先日行われた、トライアンフTE-1最終プロトタイプのオンライン・ブリーフィング上の質疑応答で、トライアンフ側は「クラシックスタイルのバイクは、エンジンが全体的なスタイリングにおける非常に重要な問題なので、電動化するのは間違いなく難しい・・・」とコメントしました。
4輪の分野でコンバートEVがビジネスとして成り立つ理由のひとつには、ICEが車体の中に収まっていて外部から見えないので、電気モーターとバッテリーに積み替えても外観上の違和感は皆無という点があげられます。
2輪の場合は・・・フルフェアリング装着車であればICEの露出度は低いため問題視されることは減りますが、それ以外の場合は外観上重要なスタイリング要素でもあるICEが存在しないことで、モノとしての魅力が激変する・・・というのが一般的な見方になるでしょう。
動力性能、燃費性能、そして趣味性が非常に高いスーパーカブ系ICEを取り外してまで、コンバートEVキットのE-COREを使う意味はあるのでしょうか・・・? 2030年にガソリン車の乗り入れを禁止することを予定している、フランス・パリ都市圏のようなエリアではコンバートEVキットの需要が生まれるかもしれませんし、エンジンスワップのような、趣味のDIYとしてのコンバートEVの楽しみというのもアリ・・・とは思います。
E-COREについて個人的には、最も普及しているスーパーカブ系を対象とした着眼点にはなるほど!! と思うものの、わざわざコンバートEV化するのはよほどの好事家ではないか? とも思いました。あくまで個人的意見で、もしE-COREが製品化&商業的成功をおさめたときは、ただただ・・・己の不明を恥じます(苦笑)。
ともあれE-COREに興味がある方は、ぜひ「ON」のウェブサイトをチェックしてみてください!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)