※本企画はHeritage&Legends 2021年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
本来の性能を復元した上で自然に築かれる特別感
Zに求められる要素は実に多い。名車としての存在感や価値といったものは既に備わっていて、生産50年近くになる歴史で、比肩するもののないところに到達している。しかも代わるものはないし、いわゆる新車としては出てこない。だからこそ、所有感や質感をより強く楽しみたくなる。
一方で、バイクだから当然、走りも楽しみたくなる。生産当時のそれを楽しみたいという人もいるだろうが、交通事情も環境も大きく変わった今、空冷Zの価値観はそのままに、現代モデルのように扱えて走れるZがほしい。Zの歴史や、バイクの経年にともなう変化を知っているならそれはなおさら強まるかもしれない。
ブルドックの手がけるコンプリートカスタム車、GT-M(Genu-ine Tuning Machine)は、そんな“よく走るZ”に求められる事柄を反映させたものとして、大きく人気を集めている。そして、下で紹介しているZ1000Mk.IIはその最新作のひとつ。ブルドック・和久井さんによれば「18インチカスタムと17インチカスタムの双方の良さをミックスしているんです」とのこと。18インチホイール車が持つ軽快感と、シンプルで品の硬質な全体の印象。そこに、GT-Mの中核となってきた17インチカスタム製作、そこで培われた作り込みを合わせ込んでいるということだ。
前後17インチホイール仕様のカスタムでの作り込み。ノーマルの19/18インチから現代の17インチに変わることで起こる適正トレール量ほか各部ディメンションの変化をきちんと出す。当時と今とで異なる、必要とするフレーム剛性を適正にする。ズレや歪みを正しくする。
エンジンに関しても同様。経年劣化や人為的ミスでZが抱えてしまう不具合をオーバーホールとそれにともなう作業で取り除く。電装も現行車のものを使っていくなど、Z本来の性能を復元した上で、その先、性能や個性と言った部分を上乗せしていく。
例えばサーキット走行も多めという車両ならエンジン位置を上げる、セパレートハンドルで前傾姿勢が好きというなら乗車時の前後重量配分もそれに合わせるなど、個々の車両に対してオーナーの使い道や走り方に向いた作り込みを、ベースの時点から行う。
文字にしてしまえば簡潔だが、それを形にするには、ほぼ全部と言えるほどに高い自社作業率やオリジナルパーツの開発・製作というバックグラウンドがあった。自社作業については、何を行ったがすべて把握できる点と、細かい仕様や組み合わせへの適合力の高さが挙げられる。パーツ群については、今のレベルの車両を作るという点に大きく寄与する。
シフトドラムを初め、純正部品の供給がない部分については、代替をしつつ耐久性や精度を現代レベルにしたものを作る。純正があっても既に50年以上前の開発品だから、それでは以後長く楽しめないというパーツも同様。発電系やギヤ式のオイルポンプはそんな理念から作られてきた。ピストンを鍛造品に換えること、また近々開始される精密再生クランクの供給もその一環だ。
各部の問題が解決されるだけでなく、それを車両トータルでバランスしているのがGT-M。そう考えると、事前情報なしにZに向き合った時に経験してしまうだろう苦難を、ブルドックの作業とパーツは先回りで解決していることになる。高質で今の車両レベルで名車としてのZを楽しみたいなら、GT-Mはその正解となるのだ。
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カスタムとしての完成度をさらに追求するGT-M
紹介している製作例にもその時点時点での最新仕様が反映されていくGT-Mだが、最上段で見せたその1号機にして同店のデモ車でもある白いZ1-Rも、そのひとつ。和久井さん自身がオーナーであり、GT-Mのこれからを反映する車両でもある。
「デモ車がZ1-Rなのは、私が好きだから(笑)なんです。Zはどれも好きなんですけど、Z1-Rは、カスタムした時の難しさと、それをクリアした時の達成感が高いんです。
Z1-Rをカスタムするとしましょう。そこでさらっと手を入れても、ノーマルに見えてしまう。元々メーカー製カスタムという背景もあって、そのまとまり感を超えるのは案外難しいんです。それがZやMk.IIだと、ショート管にキャブレター、オイルクーラー。あとホイールも換えてあれば、相当なカスタムに見える。
Z1-Rはそれだけでは無理で、しっかり全体のまとまりまで考えて手を入れないと、カスタムらしさが出ないし、美しくない。乗り味もそうで、しっかりやらないとよくは走らない。そこにやりがいを感じるんです。それで外装のポイントになるシングルシートも格好良く見えるものをZ1-R用に作ったのが最初で、そこからZ各車用を作っていきました」
Z1-Rをカスタムとして美しく成立させる。GT-Mで意識される「このままメーカーの車両として売っていてもいいほど」という完成度=乗りやすさや使い勝手、自然なたたずまいは、ここからも生み出されていた。今だからこそ生み出される、そして今だからこそ作れるコンプリートのGT-M。これを支えるパーツ群も、新しいものが控えている。つまり、Zをこれから楽しむ時の問題は、さらに減らせるというわけだ。
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18インチ仕様に17インチの作り込みをミックスしたコンプリートカスタム
【BULL DOCK Z1000Mk.II】
前後ホイールは旧車にもマッチしたデザインを持つブルドックオリジナルのアルミ鍛造、ラヴォランテで2.75-18/4.50-18サイズ。スイングアームはアルミ5角目の字断面材製のマッコイ、GT-Mに最適化されたφ43mmのフロントフォークとリヤショックはマッコイ・ナイトロン。ブレーキはフロントがブレンボ・モノブロックCNC4ピストンラジアルキャリパー+サンスターディスク、リヤがブレンボ2ピストンキャリパー+サンスターディスク。
黒でおまかせという要望から、ボディは存在感のある黒に見えるようにアイスパールブラックで塗装し、ブラックでまとめられたハードパーツに溶け込みつつもきれいな対比を見せる。このあたりのまとまりもGT-Mならではで、希望や使い方、趣向を伝えればこのように仕上がる。ステムはマッコイ、左右マスターはブレンボRCS。シートはマッコイ・スプリームで乗り心地とともに上質な外観を作ることにも貢献している。
内燃機加工もすべて自社内で作業されたエンジンにはピスタルレーシング製鍛造ピストンを組み発電/点火系もオリジナル化して始動性や耐久性、安心感も高める。ピストンに関しては純正サイズでも鍛造品にされるが、それは乗りこんで行く上での耐久性を考慮してのこと。次回O/Hを迎えた時にもユーザー負担が減らせて長く乗れるエンジンになる。キャブレターはヨシムラTMRφ36mm、排気系はZに最適化したWin Mccoyフルチタン。
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Zをさらに先に進めるパーツ群と自社加工を形にしていくデモ車両
【BULL DOCK Z1-R(GT-M001・1230R)】
低く、美しく身構えるスタイルのベースになるビキニカウル/スクリーン/シングルシート(シート本体はマッコイ・スプリーム)、アルミタンクはマッコイ。メーターはカーボンパネルにSTACKメーターを配置。フロントマスターはゲイルスピード・エラボレート。ステムは17インチに必要なトレール量を確保するマッコイ、ミラーはマジカルレーシング。ウインカーはフロントがオイルクーラーサイド、リヤがナンバーサイドに配され、車体全体をすっきりとさせている。
エンジンはピスタルレーシング鍛造ピストン+超々ターカロイスリーブによる1230cc仕様(この時点で154ps/8000rpmのスペック。現在はφ78mm/1260cc仕様に)でヘッドはJ系を使いツインプラグ化。マッコイ6速クロスミッションや発電/点火系もオリジナル化し、これで乾燥184kgと軽量化された車体を引っ張る。キャブレターはTMR-MJNφ40mmのヨシムラ・デュアルスタックファンネル仕様。ワイド化したリヤホイールに合わせたアウトボードタイプクラッチキットなども組まれる。この車両で多くのパーツがテストされ、世に出てきた。